
戦争パートで
印象に残る第38回
「豪は朝田家に奉公に来ていて。奉公というものがそもそも現代にはないことですよね。でもその奉公のおかげで、蘭子が小さい頃から豪が身近にいて、いつの間にか親しみが恋心に変わっていった。
蘭子は、豪が自分と『同じ側』にいる人で、わかり合えるのではないかと感じていたのかなと私は思いました。豪は庭で石をコツコツ削って、蘭子は郵便局で働いて。何か似ているひたむきさを感じていたのではないかなと」
決して目立たず粛々と誰かのために働いている蘭子と豪。似た者同士が自然と結びついた。戦争がきっかけで思いを伝え合うことができたものの、その戦争によって引き裂かれてしまう。
「蘭子は10代という若さで、人を愛するということを知り、そして愛した人を失うというとても大きな経験をしました。それが蘭子の、戦争や命に関する倫理観に多大な影響を与えます。ここはドラマにとっても蘭子にとってもかなり大切な軸だと思って慎重に演じました。
とくに、軍国少女となったのぶと対立する第38回が印象に残っています。誰もが軍国主義になっていったこの時代、反戦の意思を表明する人物を演じられることに意義を感じました。戦後80年の節目に、戦争というものと真正面から向き合う作品なので、大切に演じなくてはいけないと思いました」
豪との愛情、のぶとの対立を通して、これまで抑制していたように見えた蘭子の感情があらわになっていく。
「蘭子は言葉に出さず、思いをうちに秘めているけれど、いざとなると、人とぶつかりあうことも厭わないほどにその信念を曲げない強い意思があることが伝わるといいなと思います。この後も蘭子は反戦を貫いていきます」
河合の豊かな表現力はどのように生まれるのだろうか。
「いわゆる、役の履歴書――具体的にこの人は何歳から何歳までこういう時間を過ごしていたみたいなことを作ってそれをもとに演じるというやり方もありますが、私は、台本を読んだとき、画として浮かんでくるイメージを大事にしています。抽象的なところから膨らませていくという感じです」