
「言葉を交わさないけれど
気持ちを交換している感覚」
台本から浮かんだイメージや現場で感じたことを大切にしている。例えば、壮行会にて豪を見つめる表情は豪役の細田佳央太との信頼関係から生まれた。
「第29回の壮行会のシーンで、蘭子がよさこい節を歌っているとき、それを見ている豪ちゃんとは言葉を交わさないけれど、ずっと目線を合わせていて、気持ちを交換している感覚がありました。
台本のト書きにあるわけでも演出の指示でもなく、演じながら私がニコッと笑ったら、豪ちゃんもニコッと笑い返してくれたのを覚えています。豪役の細田佳央太さんとは3回目の共演で、常にまっすぐ役に取り組んでいる信頼があったので、演じる前、自然にグッと力が入りましたし、どういうふうに心を通わせ合おうかと本番前のテストの段階からお互い探っていて。それはとてもいい時間でした」
理屈で演じるのではなく相手を感じながら、その空気に合わせていく。そういう芝居の面白さが『あんぱん』の現場にはあると言う。
「朝田家のメンバー、誰もが肩ひじ張らず、自然にマイペースで芝居に臨んでいて楽しいです。皆さん、作品への取り組み方やシーンの向かい方が全然違うんですよ。毎週月曜日のリハーサルで、先輩方の芝居を見ることも勉強になるし、とにかく面白いです」
昭和初期の生活様式からなる身体性も実践で身につけている。着物を着用することで身体に染み込ませているそうだ。
「着物を着ている人の生活感にリアリティを出すことが最初は難しかったです。どうしても自分自身の、現代人の体の使い方になっているなと、とくに最初の頃に自分の姿を見て思うことがありました。
でも、着物を着ていると自然と出てくる仕草や姿勢があるんです。例えば、裾を直す仕草だとか。そういうことがとても勉強になりました。これから時代が進むと着物からモンペになり洋服になり……着るものの変化を体感することも、年齢を重ねるお芝居をする助けになります」
これまで等身大の役が多かった河合だが、『あんぱん』では十代から自身の年齢を超えるところまで長く演じることになる。
「それは朝ドラでしかできないことです。いまのところは実年齢くらいまでしか撮影していませんが、これから年齢が上がっていくといろいろな発見ができて、今後の自分の糧になる経験になると思います」