初めてFXに挑戦した日、まるで子どもが新しいゲームを手に入れたかのように、興奮と感動に包まれた。

 スマホの液晶画面をポチポチするだけ、たった10秒足らずで数百円、数千円単位のお金が手に入る。これが積み重なって数万円単位の利益を出せたとき、「お金が目の前にたくさん落ちているぞ。拾わなきゃ損だ!」といった感覚に囚われた。

 誇張ではなく寝る間を惜しんで、僕は売買を繰り返した。次の日も、その次の日も……。バイトの通勤時間や休憩時間で「遊ぶ」ことも増えていった。為替レートを確認するため、1日に最低でも20回以上、FXアプリにログインするようになった。

 だんだんとFXの「刺激」に慣れてきた頃、僕は売買する通貨量を増やして、大きなリターンを狙うようになった。たった1日、わずか1時間、まさかの1分足らずで、10万円単位の「損失」が出るようになった。

 勤務時間中に我慢できず、トイレに行く振りをして為替レートを確認するようになった。総資産がマイナス表示されているのを見たとき、その日の仕事に身が入らなくなった。逆にプラス表示されている日もなんだかんだ心配で、ヤル気が出ない日も少なくなかった。

追証メールとロスカット
毎朝、目覚めるのが怖い

「追加証拠金(追証)が発生したのでご入金か建玉の決済をお願いします」

 このような内容のメールが連日、証券会社から届くようになった。

 FX取引では基本的に、証拠金以上の損失は発生しないようになっている。そのための仕組みが「強制ロスカット」と呼ばれるものだ。

 僕の取引していた証券会社では、必要証拠金が50%を切るとロスカットされ、すべてのポジションが強制決済される。

 ロスカットされないためには追加でお金を入金するか、建玉の一部を決済することで証拠金維持率を上げるしか方法はない。

 例えばレバレッジ25倍、1ドル100円の為替レートの場合、40万円を使えば10万ドルまで運用できる(40万円×25倍=1000万円=10万ドル)。

 このときのロスカット基準額は、40万円(10万ドルの必要証拠金)の50%、すなわち20万円だ。つまり、買値から2円下がるとレッドカード、一発退場でロスカットされることを意味する。