この子に間違いないと確信して5日目、彼女が店から出たところで、夫が呼び止めた。万一、振り切って逃げられた場合、夫は若い女の子の腕をつかむことはできないため、私も反対方向からまわり込んだ。

「今、お金を払わないで持ち出そうとしたものがあるよね?」

 夫がそう呼びかけると、あきらめたように肩を落として小さくうなずき、促されるままに事務所の中に入った。

「あなたが毎日盗っていくの、ずっと気づいていたんだよ」

 話しかけながら、私は泣いてしまう。万引き犯ならもう何十回も捕まえてきた*。でも慣れることはない。私は捕まった当人よりも動揺し、オロオロしながら話しかける。

「あなたがこんなことをすることで大勢の人が傷ついているんだよ。バイトの女の子たちもみんな『この子がそんなことをするはずがない』って言ってたの。食べられもしないほど大量に盗っていくのは本当に欲しいわけじゃないよね」

 この春、親元を離れ、1人で生活を始めたストレスか何かでこんなことをしてしまったのかもしれない、などと考えていた。だが、うつむいたままポツリポツリと話す彼女の言葉からそうではないことがわかった。

 幼く見えた彼女はもう20歳を超えていて、運転免許証も持っていた。両親のことを尋ねると、父親とは別に住んでいて、「母は……」と言いかけて言葉を途切らせた。職場がこの近くにあり、仕事に行く前に訪れては万引きを繰り返した*という。高校生のころから万引きが止められず、もう何度も捕まっているのだとも話した。どうりで手慣れていたはずだ。

「職場の先輩たちがもうすぐこの店に買い物に来るはずなんです。そのときに私が警察に連れていかれる姿を見られたら困るんです……」

「あなたの職場の人たちに知られるようなことはしない。そのときは事務所で待ってもらうから大丈夫」

 私がそう言うと心細げにうなずいた。