妻の決断「私名義の借金は自分で返します」
しばらく考えた後、妻は決意を固めたように言いました。
「私は債務整理は嫌なので、私名義の借金は自分で返します」
妻は結婚前から貯金と積立投資を続けており、総額で約450万円の資産を持っていました。収入が減った育休中も「簡単に崩してはいけない」と考え、大切に維持してきたそうです。資産があっても任意整理は可能なのですが、債務整理の記録を残すくらいならば自分の資産から返済する道を選びました。
この話を聞いて、Mさんの表情が一変し、急に明るくなりました。妻の資金で返済の援助が受けられるかもしれないという期待か、少なくとも妻名義の借金問題は解決すると安堵したのでしょう。
次に、Mさん本人の借金について検討しました。毎月の返済額は約10万円。これをMさんの収入から支払うと、たとえ妻の協力で共通家計費を削減しても、毎月の収支は赤字になる見込みです。今までは新たな借り入れで返済をしのぐ自転車操業でしたが、すでに総量規制の上限に達しているため、新規の借り入れもできません。このままでは行き詰まるのは明らかでした。
弁護士などに頼って債務整理をし、家計を立て直す
こうした状況では、Mさんの借金は債務整理をして家計を立て直すのが賢明です。老後資金や子どもの教育資金も必要ですから、まずは借金を整理する必要があります。その上で収支管理の見直しや適切な資金計画を立て、同じ失敗を繰り返さない習慣づくりが重要です。
これらのアドバイスをお伝えし、弁護士など法律家の役割とFPができることを説明した上で、夫婦に検討していただきました。
しかし後日、彼らの決断を聞いてみると、妻が自分の資産から夫の借金も含めて一括返済することになったとのこと。Mさんは「妻に頭が上がらなくなるが、クレジットカードやローンが使えなくなるよりはまし」と考えたようです。
この決断は夫婦の選択として尊重しますが、いくつかの懸念があります。返済後は妻の資産が50万円程度まで減少すること、根本的な金銭管理の習慣を変えなければ、再びキャッシングに頼る可能性があることです。特に教育費や老後資金が必要になったとき、「お金がない」という状況で再び借金の罠に陥りかねません。しかも年齢的に返済はさらに厳しくなるでしょう。
債務整理をすれば、信用情報機関のブラックリストに載ったり、クレジットカードが作れなくなったり、保証人に迷惑がかかったりといったさまざまな大きなデメリットがありますから、本当は誰もが避けたいものです。しかし、無理な返済で生活が立ち行かなくなったり、必要な支出ができなくなるのであれば、一度整理して再出発することも正しい選択といえます。もし債務整理を選ぶなら、二度と同じ失敗を繰り返さないよう、収支管理の徹底と計画的な資金準備が大切です。
無理な返済を続けることが美徳ではありません。クレジットカードが使えなくなる不便さよりも、ご自身と家族の将来を第一に考えた選択をしてほしい――借金に悩む方々と向き合うたびに、そう願わずにはいられません。