それにもかかわらず、上司は「Xさんのためだから」を強調しながら1時間から長いときは2時間近くXさんを説得し続けた。

「保育園からの連絡で急に早退したり、子どもの体調不良で欠勤したりするだろうから、子育てをしていくには正社員からパート社員に変更したほうがXさんのため」

「このままパート社員への変更を拒否し続けて、育休前に会社がXさんを解雇したら育児休業給付金(育休中に雇用保険から支給される給付金)が受けられなくなる。正社員からパート社員に変更したほうがXさんのため」

 などなど……。

度重なるストレスに耐えかねて
自ら退職願を提出してしまった

 あまりに執拗な説得で精神的に追いつめられたXさんは、最後のほうで「私は正社員でいたいんです。お願いします」と泣きながら訴えたが、それでも上司は壊れたロボットのように「Xさんのためだから」を繰り返した。

 結果として、また呼び出されるのではないかと考えるだけでXさんは動悸や息切れを感じるようになり、さらに、当時妊娠中にもかかわらず、ストレスからおなかが頻繁に張るようになってしまった。これ以上この会社で働き続けることはできないと、自ら退職願を提出するまで追い込まれてしまったのである。

 マタニティ・ハラスメントとは、働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、妊娠・出産・育児等を理由とした解雇や雇止め、自主退職の強要、非正規社員への契約変更、減給などの不利益を被ったりするといった不当な取扱いを意味する。

 このようなマタニティ・ハラスメントを防止するため、男女雇用機会均等法9条3項は、女性労働者の婚姻、妊娠、出産を理由としたり、産前産後休業等の権利を行使したこと等を理由とする解雇その他の不利益取扱いを禁止している。

 そして、2017年1月1日より施行された男女雇用機会均等法11条の2は、妊娠・出産等に関する言動により、女性労働者の就業環境が害されることのないよう、事業主は雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定めている。