録音されているとも知らずに
会社側は「証拠」を積み上げた

 最終的に、会社がXさんにこちらの請求額に近い金額を支払うことで和解となった。この圧倒的な勝利をもたらした最大の要因は、動かぬ証拠であった。

 Xさんは、1回目の呼び出しでこれはおかしいと感じ、2回目の呼び出しからすべて録音をとっていたのである。労働審判ではこの録音の音声と反訳(録音を文字起こししたもの)を証拠として提出し、審判員は事前に音声を聴き、反訳も読み込んでくれていた。

書影『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(ブラック企業被害対策弁護団、角川新書)『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(ブラック企業被害対策弁護団、角川新書)

 確かに、妊娠や育児と仕事を両立していくのはハードである。だからこそ、労働基準法や育児・介護休業法(育介法)は、妊娠中の女性労働者の時間外労働の制限、育児中の労働者の時短勤務などさまざまな権利・制度を定めている。

 しかし、これらは全て、労働者から会社に請求するものであって、会社が労働者に強制できるものではない。

 以前、「あなたのためだから」と言いながら上司が帰ろうとする部下に大量の資料を押しつけるCMがあった。「あなたのため」は会社のため、ということは往々にしてある。「あなたのため」と言われても、本当に自分のためなのか、会社にとって利益になるだけではないのか、一度立ち止まって考えてほしい。

 そして会社には、労働者にとって不利益になることを労働者に強制するのは直ちにやめていただきたい。労働者がいるからこそ会社が成り立っていることを忘れてはならない。