「ガラガラ」は結果ではなく
良質な顧客体験をつくるための手段

 西松屋と、詳細なデータ比較がしやすいアカチャンホンポを軸に見ていくと、興味深い特徴が浮かび上がってきます。

図2:データ比較西松屋は2024年度、赤ちゃん本舗は2023年度。店舗数は期中平均。客数は筆者の粗い推計で試算程度に捉えてほしい。西松屋の売場面積は各種資料から推計。従業員は社員とパートタイム計で、全従業員数で店舗以外も含む人数。客数と客単価は公表されておらず、各種資料からの著者による粗い推計 拡大画像表示

 売り場面積あたりの従業員数を見ると、赤ちゃん本舗は1.4人/100平方メートルなのに対して、西松屋は0.6人/100平方メートル。「店員があまり見当たらない」というのは、確かに間違っていないようです。

 一方で、実は売り場面積あたりの客数は平均すると両社に大きな差はありません。週末のアカチャンホンポ(ショッピングモールなどへの出店が多い)の混雑状態が体感値の差になっているのかもしれません。

 西松屋では、店舗が繁盛して売り上げが一定基準を超えると近隣にさらに出店し、店舗の「ガラガラ」状態を維持しながら地域での寡占化を図っています。

 なぜ、西松屋は一見非常識な「ガラガラ」戦略をとっているのでしょうか。実は「ガラガラ」こそが、西松屋の“顧客体験”には重要なのです。

 西松屋の顧客の多くは親子連れで、ベビーカーや子どもと一緒に買い物に来ています。

 このようなお客さんにとって西松屋は

●いつ行ってもお店が「ガラガラ」で他の顧客を気にしなくていい
●通路も幅広いためベビーカーもすれ違いやすく、子どもが人にぶつかる心配もない
●店員が少ないため、気兼ねなく買い物ができる
●BGMがなく店内が静かで、子どもが寝ていても落ち着いて買い物できる

 場所となっています。