この赤いペーストに大根とにらを加え、白菜の葉の間に塗りこんでいくのだ。ビニール袋を装着して、塗りこんでいく。ひと通り終えたところで、手に残った赤いのをぺろっとなめてみる。辛い。辛すぎて舌が燃えそうで、あわてて口をすすいだ。
しかし食べ慣れたキムチというのは、辛いけれどもまろやかで、うまみを感じる。この激辛があんなにまろやかになるなんて、発酵の力ってすごいんだな。冷蔵庫に入れて、ひと息ついた。
チリペッパーで作ったキムチが
激辛になってしまった理由
2週間経って開けてみる。白菜は、いっそうしんなりして赤い色がしみて、キムチらしい趣になってきた。味見をすると…辛い。相変わらず辛い。今まで食べたどんなキムチより辛い、というか辛すぎてうまみも感じられない。レシピ通り作ったはずなのに、一体何が違ったのか。
改めてレシピを見返して、うんうん唸り、ハッとした。粉唐辛子!
私はチリペッパーを使ったけれど、レシピでは「粉唐辛子」と書かれていた。もしかして、違うのだろうか。
調べてみたら、「粉唐辛子とは韓国産唐辛子を挽いたもので、辛味が少なく甘味やうまみがあるのが特徴」と書かれていた。辛さの指標であるスコヴィル値は、日本の鷹の爪の約半分。
なんてこった!粉唐辛子って、単に唐辛子を粉にしたものではなかったのか。スーパーに駆けていき、前回は躊躇した「韓国産粉唐辛子」を迷わずつかみ、レジへ。
帰宅して封を開けたら、もう見た目から違う。色が明るく鮮やかで、ドライトマトのような甘い香りがする。ぺろっとなめると、辛さは想像の半分くらい。甘味やうまみが強く感じられる。韓国のキムチが見た目ほど辛くないのは、そういうことだったのか…。
そうして、残っていた白菜で再びキムチを漬けたら、今度は期待通りの辛くてうまいキムチになってほっとした。

この話を韓国の方に話したら、笑われた。そして「韓国のキムチも、昔は辛くなかったんだよ」と教えてくれた。
韓国への唐辛子伝来は16世紀頃とされており、それ以前のキムチは白かったらしい。唐辛子の原産地である中南米からどういう経路でたどり着いたのかは諸説あるが、この土地に適合して広まっていったのが、今のうまみと甘味の強い品種のようだ。冬がうんと寒い韓国、体を温める唐辛子が重宝されたことは想像に難くない。
韓国料理は、真っ赤な料理が多いけれど、赤は辛味だけではなくうまみでもあるというのは驚きだった。百聞は一見にしかずというけれど、100回食べていても、案外わからないものだ。1回料理するにおよばない。