「どうして?」と聞くと「思い込み」が出てくる
前の会話例では、BさんはAさんに、「どうして?」と理由を直接に尋ねていました。そのため、回答者のAさんが、いろいろ思い出したり、考えたりしてからでないと、答えられない質問になっていました。つまり、Aさんにとって「いろいろ考えないと答えられない」質問になっていたわけです。Bさんはそのことに無頓着なようにも見えますね。
しかし後の会話例では、「事実に絞って」聞いていくことで、Aさんは「事実を思い出す」だけで、答えられるようになっています。つまり、Aさんにとって負担の軽い質問をいくつか継いでいくことを通じて、Aさんが正確に答えられるようなコミュニケーションを取っていたというわけです。
前の事例ではAさんはその場で何か慌てて答えることになるので、「思い込み」など、正確でない答えを引き出してしまうかもしれません。いずれの質問のほうがより相手と良いコミュニケーションができるかは明白ですね。
人の記憶はなかなか当てにならないものです。一方で、「理由」を直接に聞かれると、人は「すぐに答えないと」というふうに考えて、つい、何かをその場で取り繕って答えてしまうことがあります。みなさんも、その場で急に何か意見や回答を求められて、慌てて答えたはいいものの、後から考えると「なんであんなことを言ってしまったんだろう?」と反省した経験は、一度や二度、あるのではないかと思います。
「良い質問」が、良いコミュニケーションにつながる
一方「事実質問」を使った後の事例では、事実質問の原則「考えさせるな、思い出させろ」に沿って、Aさんの思考を解きほぐしながら、対話を進めていますね。この点に違いがあります。
「Bさんがここまでしなければいけないの?」「こんな質問、まどろっこしい」と思う方もいるかもしれませんね。しかし、対話は、どちらかが質問し、相手がそれに答えることから始まります。つまり、よい人間関係の基本には、よいコミュニケーションがあり、よいコミュニケーションの出発点には、良い質問があるのです。
相手にとって、「答えやすい質問」をする。これが、相手との信頼関係を築く、第一歩になります。
そのコツが、「答えやすい事実」に沿って、質問を継いでいくこと。「事実質問」は、簡単そうに見えて奥の深い、それでいて相手との関係がよくなる実用的なメソッドなのです。
(本記事は『「良い質問」を40年磨き続けた対話のプロがたどり着いた「なぜ」と聞かない質問術』に関する書き下ろしです)