このような少ない量では、骨格筋を増やすことができないのではないか、という疑問をもたれるかもしれません。では、タンパク質摂取量を大きく増やすことなく、骨格筋量を増やすためにはどうしたらよいのでしょうか?
答えは、運動(とくに筋力トレーニング)を行うことです。
食事だけでなく
体を動かすことが重要
タンパク質を多く摂取することで骨格筋量がある程度増加しますが、筋力トレーニングを行うことで、タンパク質の摂取による骨格筋の増加がさらに高まります(それゆえ、筋力トレーニングをすると筋量が大きく増加します)(注7)。
つまり、食べるだけではなく、しっかりと体を動かすことが重要であり、そうすることで、タンパク質の摂取量を大きく増やさなくとも、骨格筋量をある程度増やすことができるのです。
当然のことながら、タンパク質が不足してしまうと、骨格筋量の減少や筋力の低下につながるため、摂取量を減らしすぎないように注意することも重要です(とくにダイエットで食事制限をしている若年女性などでは、先に示した推奨量に満たないことがあるので注意が必要です) 。
また、先に紹介したアメリカで行われた国民健康・栄養調査では、65歳までであれば、タンパク質の摂取量を減らすことによって死亡率が減少する可能性が示されていますが、それ以上の高齢者の場合、タンパク質を多く(摂ることで、死亡率がむしろ低下するという結果も報告されています。
タンパク質の摂取量を増やすことで糖尿病などの疾患にかかりやすくなる可能性があるということを先に述べましたが、そのような影響が強く現れるのはとくに動物性タンパク質だといわれています。
一方、植物性タンパク質では、そのような影響は少なく、むしろその摂取量を増やすことで糖尿病の発症率が低下するという可能性も示されています(注8)。
したがって、健康長寿を実現するためには、タンパク質の「量」だけではなく、「質・種類」も考慮する必要があるといえます。

ただし、植物性であっても、その種類によってはむしろ健康に対して悪影響を及ぼす場合もあります。
このように、もっとも有名な栄養素の一つであるタンパク質に関してもさまざまな研究結果・知見が報告されています。多くの人は、「○○を食べれば健康になれる」「○○の摂取量を増やせば/減らせば健康になれる」といった簡潔明瞭な答えを求めがちですが、栄養や食事はそのような単純なものではありません。
健康状態が悪化してから対策を打つのではなく、高齢期の健康について若い頃からある程度予見しながら、適度な運動と適切な食事を心がけ、筋量を高め、健康な状態を維持しておくこと、つまりサルコペニア肥満とならないように「予防」することがきわめて重要となるのです。「健康は一日にしてならず」です。
(注8)Shang, X. et al., Am. J. Clin. Nutr., 104:1352-1365, 2016.