何しろ、日本の裁判所の設備は貧しく、ほとんど無防備ともいえる状態なのです。傍聴席の彼らが本気で暴力行為に出たら、阻むものは何もありませんでしたから。女性の裁判官であればまたさらに違った心理になるのもしれません。
ただ、多くの場合は法廷に連れてこられる暴力団員である被告人は、裁判官の前では大人しく、神妙にしているのが常です。それはそれはしおらしく、この被告人が本当に犯罪に手を染めたりするのだろうかと目を疑ったことも一度や二度ではありません。要するに、これが「プロ」の犯罪者なんでしょうね。
少年審判でしばしば発生する
被告人たちの奇行との違い
反対に、少年審判で、審判廷に来た少年が裁判官の前で「さあ、俺をころせ!」などと叫んで床に大の字になる――といった奇行が報告されますが、それこそが子どもの証です。暴力団員たちは、私が知っている限りは、法廷では一様にしおらしいのです。裁判慣れしているというのでしょうか。これはこれで恐ろしいことでしたが…。
よく、新聞あたりで画期的判決(憲法違反とか)が出たみたいな記事が出ますけども、画期的というのは、今までの流れとは逆の結論をとって時代を一歩進めたみたいな判決を想定しましょう。この画期的判決というのは、書くのは大変なんです。
今までの延長で判例に従って穏便な内容を書いている分にはあまり苦労もしないし悩みもしないものの、画期的な判決、今までなかった内容で、裁判所の前で万歳三唱が起こるような判決を書くとなるとそれは大変です。まず勉強しなければならない。先ほど来述べてきたように単に記録を読んで結論を出したら一件落着というほど単純ではありません。だから画期的な判決を出すのは大変であって、裁判官も一定程度限られます。能力がない人は画期的な判決なんて書けないですよ。