銀幕に憧れていたくら(浅田美代子)
伏線は第18回に敷かれていた

 メイコはラジオで聞いた「のど自慢」に刺激を受け、予選を受けるために東京に行く決意をしたのだ。

 旅費を渡したのは、蘭子ではなく、くら(浅田美代子)だった。冒頭、釜次がメイコを問い詰めているとき目を反らしていた。第68回のラストでメイコと蘭子の話を立ち聞きもしていた。

「あの子は昔のあてなが」

 メイコが消えた家でくらは釜次たちに語っていた。若いとき、高知で映画を見て、京都の撮影所に行って映画俳優を目指そうと夢見たときがあった。

 くらははじめて心のうちに秘めていたことを語りだした。

「銀幕の向こう側にどういても行ってみとうなってね」
「あてができんかった冒険、メイコにしてほしがったがよ」

 清水の舞台から飛び降りるように京都の撮影所に行っていたら……。専業主婦として家のなかにずっといた彼女がそんな思いを抱えていた。

「おなごいうんは大胆なことを考えよるにゃあ」と参ってしまう釜次。このひと、まったく奥さんのことを知らなかったのだなあ。こうやって多くの女性は夢を諦めて家庭で夫や子どもに尽くす日々を送るのである。

 くらはそんなかすかな夢をほんの少し漏らした回があった。

 第18回。そこでくらは文化的興味のあることを見せていたのだ。

 そのとき千尋(中沢元紀)のことを「ゆくゆくは御免与町のゲーリー・クーパー」とくらがメイコと語っているのだ。当日、ゲーリー・クーパーの出る映画『昼下がりの情事』がBSNHKで放送されていたので、それに掛けたセリフかと思いきや、くらが映画好きであることを表すセリフだったというわけだ。

 当時まだテレビもなく、娯楽もあまりなさそうで、ようやくラジオが家に来たくらいだったのに、専業主婦のくらが急にゲーリー・クーパーと言いだしたのが不思議だった。でも映画が好きで、お嫁に行く前は時々、映画館にでも行っていたのかもしれないと思わせるセリフだった。実際、高知にも大正時代から映画館があったようだ。