わずかに差し込む太陽光を見つめ
必死に水をかいた

 濁流の合間を縫ってわずかに差し込む太陽の光を見つめ、必死に水をかいた。障害物にぶつかり、額を切り、肩を強打した。水面までの距離はほんの数メートルのはずなのに、永遠に遠ざかっていくようだった――。

「生きたい」

 その思いだけが、彼を突き動かしていた。痛みさえ、彼を奮い立たせた。

 そして、ついに水面を突き破り、顔を出した。空気を肺いっぱいに吸い込む――。

 呼吸ができるという事実に、全身が震えた。流されながらも、必死に漂流物にしがみつき、やがて近くの高台にたどり着いたのだった。

冷静になることが
一番の武器だった

 自然の猛威の中で、生き延びたひとりの男。後に彼は語る。

「冷静になるってことが、一番の武器だったと思います。パニックになっていたら、シートベルトも外せなかったでしょうし、窓ガラスを割るという発想も出来なかったでしょう」

 そもそもすぐに高台に逃げていれば、命の危機に瀕することはなかっただろう。

 自然をみくびる気持ちは、一切捨てるべきである。人間が太刀打ちできる相手ではない。そんな彼を救ったのは、決して特殊な技術や道具ではなく、“冷静に考える力”を失わなかったことだった。

<命を分けた教訓>
■車内にある脱出道具
 もし脱出用ハンマーがあれば、もっと早く安全に窓を割れたかもしれない。非常灯とシートベルトカッターが一体になったハンマーも売られている。
運転席からすぐ届く位置に取り付けておくべきだ。

■“金属製の何か”
 車内にはシートベルトのバックルやヘッドレストの金属部など、代用できる道具はある。決してあきらめないで。

■窓ガラスの四隅を狙え
 多くの人が中央を叩いて割れずに諦める。だが、専門家は「四隅」が弱点だと口をそろえる。

■何より冷静であれ
 水没した車内でパニックになれば、すべての判断が鈍る。呼吸を整え、手順を一つずつこなすこと。それが生還への道につながる。

※個人情報への配慮から、一部内容を改変しています。