認知能力とメタ認知の問題

(3)認知能力に問題がある

 自分に非があることを理解できない人物もいる。認知能力に問題があり、文脈を読み取れないのだ。自分が人に迷惑をかけるようなことをした場合も、そのことを理解できない。いわゆる読解力がないのだ。

 読解力というと、国語の試験で良い成績を取るためには重要でも、日常生活にはとくに関係ないと思っている人が多いかもしれない。

 だが、読解力が乏しいと、「自分がこういうことをしたら、周囲にどんな影響が出るか」「自分がこれを怠ったら、周囲にどんな負担をかけてしまうか」というようなことがわからない。だから、余計なことをして迷惑をかけても、義務を怠って迷惑をかけても、謝らないといったことが起こってしまう。

 また、自分の落ち度について、人から注意されても、その人の言った内容をよく理解できないため、悪いことをしたという気持ちにならない。だから、自分の落ち度を注意されても謝らない。

 上司や先輩が、何か落ち度があったことを説明し、注意しても、読解力が乏しいため、言われた理屈をちゃんと理解できず、「なんか感じ悪い」とか「うるさいことを言う」としか思わない。自分が悪いという認識がないので、当然ながら謝ることがない。むしろ、「嫌なことを言われて不愉快だ」と思っていたりする。

(4)メタ認知がうまく機能していない

書影『絶対「謝らない人」』(詩想社)榎本博明『絶対「謝らない人」』(詩想社)

 謝らない人の中には、自分を振り返ることができないタイプもいる。メタ認知が機能しないのだ。メタ認知というのは、ここの文脈に合わせて簡単に言えば、自分自身の言動を振り返ることである。

 メタ認知がうまく機能している人なら、たとえば上司や先輩から接客をもっとていねいにするようにと注意を受ければ、自分がどのようにやっていたかを振り返って、「あれがまずいんだな。もっとていねいに応対すべきなんだな」と気づくため、「すみません。これから気をつけます」といって、以後接客態度を修正することができる。

 だが、メタ認知が機能しない人だと、注意を受けても自分を振り返ることがないため、反省して謝るどころか、「ていねいにやってるじゃないか。なんでケチつけられなきゃいけないんだ」というように、被害者意識さえ抱いたりする。

 このような人物は、自分を振り返ることがないため、自分のミスだから謝るようにと言われても、それは理不尽だと感じ、謝る気になれない。まったく「あり得ない態度」なのだが、本人にしてみれば「あり得ない攻撃」を受けているのである。自分に落ち度があったという自覚がないのだから。

 仕事でよくミスをするのに反省せずに、「お局さんが意地悪ばかり言うから困る」とか「きっと自分は嫌われてるんだ。言いがかりをつけられてばかりだから」などと被害者意識を口にする。

 そのような人物に呆れることがあるかもしれないが、メタ認知が機能しないため、本人は本気で自分が被害者だと思い込んでいるのである。

 このように、当然謝るべき場面で謝らないといっても、その理由にはさまざまな要因が絡んでいるので、タイプによって謝らない理由が異なっている。ゆえに、注意したときの反応をみて要因を見極め、それに応じた指導をしていくことが大切となる。