「自分はもっとできるはず」が自分を苦しめている!?

――自己批判してしまう人には何か共通点はありますか?

川野:そうですね。自分をすぐ責めてしまう思考は、偏差値教育や、周囲の期待に応えて育ってきた人に多い傾向があります。

「もっとできるはず」というプレッシャーの中で育つと、自然とそう考えるようになってしまうんです。

「できない自分を認める」ことで、心が軽くなる

――川野先生は、医師としても禅僧としても堅実にキャリアを積まれているので、できない自分を責めてしまったり、という経験はあまりないのでしょうか。

川野:いえいえ、私も修行時代には、「無能だ」と何度も言われ、理不尽な思いもたくさんしてきました。

でも、その経験があったからこそ、不器用な人の気持ちが少しはわかるようになったと思います。

――できない経験が、共感力につながっているんですね。

川野:そうですね。だから、自分ができないことをそのまま認められるようになると、生きるのがラクになりますよ。

嫉妬は「人間として当然の感情」

――嫉妬心をなくすにはどうしたらいいでしょうか?

川野:人に対して嫉妬するのは、人間として当然の感情です。

まず、嫉妬したときに「こんなふうに思う自分はダメだ」などと思う必要はないと理解することが大切です。

そして、嫉妬するところから一歩進んで、自分を幸せにする方法があります。

本書に「他の人の成功を自分のことのように喜ぶ」という項目がありますが、これは仏教の「四無量心」にも通じる考え方です。

その中でも「喜」という心は、「他者の幸せを自分のことのように喜ぶ」という実践なんです。

他者の幸せを喜べるようになる「簡単な方法」とは?

――人の幸せを心から喜べたらよいのですが、実際には「おめでとう」と言いながら、心の中ではもやもやしてしまうこともありそうです。

川野:私たち人間には嫉妬心があるので、他人の幸せを素直に喜べないこともあって当然です。

はじめは「この人の幸せが続きますように」と心の中で唱えてみてください。

たとえ気持ちが追いつかなくても、繰り返すことで少しずつ気持ちがやわらいでいきますよ。

――唱えるだけならできそうです。

川野:そうですね。こうした「小さな実践」を続けてみると、自分自身もラクに、幸せな気分になっていきますよ。

『瞬間ストレスリセット』には、そんな心を整えるヒントがたくさん紹介されています。

どれかひとつでも、今の自分に合うものを見つけて、試してもらえたら嬉しいですね。

(本書は『瞬間ストレスリセット 科学的に「脳がラクになる」75の方法』に関する書き下ろし特別投稿です)

川野泰周(かわの・たいしゅう)
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。
著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、近著には『禅僧の精神科医が教える 頭と心が整理される1分の使い方』(大和書房)などがある。