
声優の戸田恵子(鉄子役)だからこそ
メッセージ性の強いセリフが刺さる
なぜ闇市にいるのか問えば、一番困っている人の生の声を聞くためと答える鉄子。これもまた、のぶのやりたいことと同じ。のぶはひじょうに共感したに違いない。
「ここはどん底やき」。鉄子は焼け跡のことをこう表する。
食料不足と言いながらあるところにはある。戦争で悪儲けした連中や私腹を肥やした金持ちがいる。鉄子はそれを貧しい人たちに分配すべきと主張する。
ド正論に次ぐド正論。戸田恵子が声優でもあるだけに言葉が明晰で、こういう主張台詞はしっかり聞かせる。座間先生の山寺宏一、東海林の津田健次郎と声優もやっている俳優は皆、メッセージ性の強いセリフを担わされている。
単に「アンパンマン」にゆかりのある声優だったり人気声優だったりを、話題性のためだけに起用しているわけではないのがわかる。
困っている女性たちが鉄子に助けを求めて大勢やって来た。鉄子に必死に訴える女性たちの名前がA子、B子、C子(ざっくりしてるなあ)。そこへ元締がやってきて脅しをかける。のぶは果敢にカメラで撮影しそれを記事にすると凄む。速記で状況もメモっている。いまでいうテレコ(テープレコーダー)で録音しました、というやつである。
元締がのぶに暴力を振ろうとするところを嵩がかばう(質屋のときと同じ)。
嵩「好きなだけどうぞ。慣れてますんで」
元締「気味の悪いやつだな」
ここは深刻なシーンだがちょっと笑える。
鉄子は、のぶが速記ができることに感心し、さらに彼女の使っている高級カメラを見て、それをくれた旦那さんはお金持ちなんだろうと推測する。この時点では彼女はのぶに有能さを感じながらもまだ、私腹を肥やしている人の側と思っていたかもしれない。冒頭では「あんなのようなお嬢さんが来るところじゃない」と言っていた。
ところがのぶが夫は病気で亡くなったと知るとたちまち表情を変え優しい声になる。のぶが戦争で夫を亡くして苦労しているのだと気づいたのだろう。