管理職に絶対必要なのは、明確な目標とルールを示すこと。そして、成果を出した人をフェアに評価すること。逆に、成果を出せない人間が昇進してしまうような組織は、壊れていくだけ。
評価は、人格攻撃はせず、あくまで仕事の内容に対して厳しく評価します。僕はよく叱りますが、それは「なぜミスしたのか」を分析できない人に対して。分析しない人は同じミスを繰り返す。どうしようもなく繰り返す人には「適性がない」と判断して、別の場所へ移してあげる。それは本人のためでもあります。
人を叱るなら、その人に本気で向き合わなきゃダメ。相手に愛情と興味があれば、こちらの意図はきちんと伝わります。そういう姿勢があれば、信頼関係は壊れません。
――とはいえ、会社は数字を重視します。売り上げや達成率など、明確な数値目標を追わなければいけないですよね?
数字は、目標ではなく結果なんです。例えば漫画家にとって本当に大切なのは、自分の伝えたいことが、どれだけの人に届いたか。その結果として、ヒットがあるんです。
だから僕は、ヒットを目指せとは言いません。「どれだけ多くの人に、何を届けたいのかを考えろ」と伝えます。数字のために作品を作ろうとすると、それは必ず過去のデータに頼った発想になる。でもそのデータは、今日までのものしか語っていない。未来のヒットは、予測と仮説からしか生まれません。
――確かにデータは過去の蓄積でヒントにはなっても、それだけで未来を創れるわけではないですね。
そう。必要なのは「これならヒットするかも」と仮説を立てる力であって、その上で数字を構築する力も必要になる。
そもそも当たると分かっている仕事は、面白くない。外れるかもしれないからこそ、面白いんです。百発百中なら、つまらない。むしろ、外すリスクも踏まえて挑戦することが、創作の醍醐味ですよ。
『ジャンプ』には、初代編集長が立てた3つの基本方針がある。僕が編集長として戻って、売り上げが落ちた理由と対策を考えたときに、この方針はやっぱり正しいなと思った。
1つ目は新人を起用する「新人主義」。新人は感性が新しい。だけど、やっぱり実力は未熟。だから2つ目は「二人三脚」。新人の作品は編集者と二人三脚で作り上げる必要がある。3つ目は読者の声を聞く、「アンケート主義」。
この方針を立てた初代編集長は、歴代の中でただひとり天才だと思う。2代目から僕の手前までの編集長は……疑問だよね(苦笑)。僕からが普通の編集長(笑)。
――ちなみに、予想外にヒットした作品は何ですか?

『Dr.スランプ』ですね。当たるとは思っていたけど、あそこまでヒットするとは思ってなかった。
――それこそ、『ONE PIECE』は連載開始にずっと反対されていたそうですね?
そうです。新連載会議で検討した時点では、キャラクター自体には魅力があるけど、コマ割りが分かりにくくネームが読みにくかった。見せ方が下手なせいで、魅力がうまく伝わってなかった。どんなに面白いキャラや世界観でも、読者にうまく届けられなければ意味がない。
それを整えてあげるのが、担当編集者の仕事なんです。でも、それができていなかったから、僕は反対したわけ。確かに会議では延々と揉めた。
でも、最終的に編集長として連載を判断したのは、僕だからね(笑)。
