
世界の自動車産業がEV(電気自動車)にシフトしていく中で、SDV(ソフトウエア定義車)化が進んでいる。分かりやすく言えば、モデルチェンジではなくソフトウエアで進化していく「クルマのスマホ化」だ。ここで日本は相当な後れを取っている。一方で中国の新興EVメーカーは既に米テスラを凌駕するほどの進化を遂げ、それに危機感を持った欧米有力メーカーは開発やり直しの最終段階にある。特集『自動車 “最強産業”の死闘』の#19では、世界の自動車産業で始まったSDVシフトで先頭を走る中国新興EVの動きと欧米勢の最新の動き、日本が取るべき処方箋を探った。(名古屋大学客員教授 野辺継男)
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中国EVメーカーを躍進させた「ゾーン型SDV」とは?
2020~24年に世界のEV(電気自動車。バッテリーEVとプラグインハイブリッド車を含む)市場は年平均50%超で拡大した。直近の増加率は前年比25~35%へと減速したが、それでも世界的な普及は確実に進んでいる。一方、日本ではEV比率は停滞し、「電動化=ハイブリッド中心」という独自路線が続く。トヨタ自動車を中心としたこれまでの成功が“イノベーションのジレンマ”となり、海外のEVが“販売後も成長するSDV”として市場を急拡大している現実を捉えにくくしている可能性がある。もちろん、顧客は「SDVだから」買うわけではない。実はSDVには「価格」のメリットも隠されている。
SDVは、車の機能をハードウエアではなくソフトウエアで実現し、出荷後も更新を行い、進化させる車両だ。OTA(Over the Air=無線)によるソフトアップデートで航続距離や充電時間、運転支援等の性能を引き上げる。例えば、自動緊急ブレーキを低速から時速100km超まで、対応可能な速度を広げるようなこともソフトで改善する。SDVは、まず“販売後も成長する車”と捉える必要がある。その実現に向け、海外の先進メーカーは電子/電気構造を根本から再設計している。
現状、エンジン、ブレーキ、ライト、空調など機能ごとに電子制御ユニット(ECU)が、多い場合は100個を超え、カー・エリア・ネットワーク(CAN)という車載ネットワークでつながれている。CANはインターネットの開発以前に決まった規格で、帯域・速度・通信セキュリティー等の面でのSDV化に向け限界が顕在化していた。
古い構造に新技術を増築すると、とかく不具合(バグ)と出荷遅延を招く。そこで登場したのが「ゾーン型アーキテクチャ」への建て替えだ。車両を四つ程度の領域(ゾーン)に分け、中央の高性能コンピューターで全体を統合制御する。米テスラは17年のモデル3で導入し、配線を大幅に削減し、制御効率も高めた。機能の再利用や故障点の局所化と改修、リコールまでOTAアップデートで行い、車は販売後も成長し続けた。
テスラのモデル3は、イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)に“生産地獄”と言わせるだけあって、生産の立ち上げに約1年の期間を要したが、18年5月に全車OTAで制動距離を短縮し、安全性を向上した。これは、まさにゾーン型SDVの効用であり、メディア評価を一気に高め、後の時価総額急騰に続く。
その後、「テスラ・キラー」と期待されたEVが何車種も市場投入されたが、ほぼ不発。流れを変えたのは、テスラ同様にゾーン型へ切り替えた中国勢だ。実は真のテスラ・キラーとなった中国の新興EVメーカーは、まだ日本ではあまり知られていない。中国勢はこのゾーン型EVで革新的な進化を遂げており、欧米日の新たな脅威となっている。それはどこか。日本に打つ手はあるのか。次ページで探っていく。