関税地獄 逆境の日本企業#13関税値上げに否定的なトヨタ。自動車業界では“2つの神経戦”が勃発している Photo:Andrew Harnik/gettyimages, 123RF

トランプ関税の発動以降、トヨタ自動車は販売価格の値上げについて否定的な姿勢を示してきたが、5月8日に行った決算発表の場でもその姿勢を崩さなかった。特集『関税地獄 逆境の日本企業』の本稿では、完成車メーカーや部品メーカーの間で勃発している「2つの神経戦」の構図を明らかにしよう。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)

トヨタ4・5月で1800億円の関税影響も
「場当たり的な対応取らない」

「我慢比べになってきましたね」。トヨタ自動車が、米国へ輸出する際の関税分を販売価格に転嫁する“関税値上げ”に対し改めて否定的な方針を示し、日系完成車メーカー関係者はこうつぶやいた――。

 5月8日、トヨタが2025年3月期の通期決算を発表した。売上高は前期比6.5%増の48兆367億円と堅調だった一方で、営業利益は同10.4%減の4兆7956億円、純利益は同3.6%減の4兆7651億円と減益となった。

 翌26年3月期の見通しについては、円高の見通しや資材価格の高騰などを背景に、営業利益は前期比20.8%減の3兆8000億円とした。

 今回の決算発表の場で業界の注目を集めたのは、トヨタが依然として「関税値上げはしない」とのスタンスを貫いたことだ。トランプ政権下で導入された追加関税に対し、トヨタは米国内での販売価格の引き上げについて慎重な姿勢を維持しており、その姿勢にブレはなかった。

 トヨタの宮崎洋一副社長は、「短期的に関税があるから値上げをするなど、そういう場当たり的な対応は、トヨタとしては取らない」と明言した。

 王者・トヨタが関税値上げに否定的な姿勢を示したことで、完成車メーカーと部品メーカーなどの間では、水面下で「2つの神経戦」が勃発している。次ページ以降では、その駆け引きの構図を明らかにしていこう。