アベノミクス第3の矢である成長戦略の概要が固まった。14日には閣議決定される予定だ。その内容を検討すると、低成長の原因究明がなく、各省庁の予算獲得に向けたウイッシュリスト(欲しいものリスト)の域を出ない。

たなか・ひであき
明治大学公共政策大学院教授 1960年生まれ。1985年、東京工業大学大学院修了(工学修士)後、大蔵省(現財務省)入省。内閣府、外務省、オーストラリア国立大学、一橋大学などを経て、2012年4月から現職。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士、政策研究大学院大学博士。専門は予算・会計制度、公共政策・社会保障政策。著書に『財政規律と予算制度改革』(2011年)。

 さる6月5日に安倍首相がスピーチを行い、2013年の初めに放った第1の矢(金融緩和)、第2の矢(機動的な財政政策)に続き、最後の第3の矢である成長戦略の大枠がわかった。成長戦略は、正確には、これまで第1弾、第2弾そして第3弾が発表されており、今回の成長戦略はこれまでの集大成である。成長戦略の重要性は論を待たないが、これまで歴代の内閣が成長戦略を繰り返しつくっており、安倍成長戦略は従来と何が違うのか。14日の閣議決定を前に、成長戦略の課題と問題を検討してみよう。

検討する「場」の問題点

 最初に取りあげるのが、成長戦略の検討の過程である。安倍政権の成長戦略に関する指令塔が「日本経済再生本部」であり、本年1月8日に第1回の会合が開催された。同本部は、安倍総理を本部長、麻生副総理を本部長代理、菅官房長官・甘利経済再生担当大臣を副本部長とし、全閣僚が本部員となっている。

 同本部は、これまで6回開催された(最新の第6回は本年4月2日)。成長戦略について議論が始まったのは第3回(1月25日)からであり、第4回(2月26日)では、関係4大臣からの所管に関する成長戦略の説明、第5回(3月15日)では、TPP(環太平洋パートナーシップ)についての議論、第6回では、電力システム改革についての議論がなされた。

 総理や閣僚で構成される日本経済再生本部は儀式を行う場であり、実質的な検討を行うために、日本経済再生本部の下に、成長戦略の具体化と推進について調査審議するために「産業競争力会議」が設置された。同会議は、安倍総理を議長、麻生副総理を議長代理、甘利経済再生担当大臣・菅官房長官・茂木経済産業大臣を副議長とし、12人の議員(山本・稲田の2大臣、2人の学者、8人の企業経営者)で構成される。

 産業競争力会議は、第1回(1月23日)から第10回(5月29日)まで精力的に検討を進め、直近の第11回(6月5日)は、成長戦略の素案が示されている。会議では、毎回、関係大臣や民間有識者から、膨大な資料が提出され、それぞれの立場から成長戦略のあるべき方向や内容についての説明がなされている。