日常会話すらままならない大学生活
実は、入学の1ヵ月前には、ロードアイランド州にあるブラウン大学のサマースクールで、外国人向けの英語のクラスを受講して、入学に備えることにしていました。
[京都大学国際高等教育院教授]
東京都生まれ。東京教育大学附属高等学校(現筑波大学附属高等学校)を卒業後、アメリカのハーバード大学で学位、フランスの欧州経営大学院(INSEAD)でMBA(経営学修士)を取得。その後、マッキンゼーのパリオフィスで経営コンサルタント、イギリス・ロンドンの投資銀行S.G. Warburg(ウォーバーグ銀行)でファンド・マネジャー、フランスの証券リサーチ会社でエコノミストとして勤務したのち、ポーランドでは山一證券の合弁会社で民営化事業に携わる。
1998年より国際公務員としてスイスのBIS(国際決済銀行)、フランスのOECD(経済協力開発機構)で職員年金基金の運用を担当。OECD在籍時にはIMF(国際通貨基金)のテクニカルアドバイザーとして、フィジー共和国やソロモン諸島の中央銀行の外貨準備運用に対して助言を与えた。その後、スイスで起業し、2012年4月より現職。
1日の授業時間は4時間。外国人専用の授業だったため、文法の授業は高校の復習レベルです。
また、クラスメイトもネイティブスピーカーではなかったため、私の英語を理解してあげようという気持ちがあり、なんとか通じます。先生たちも、はっきり、ゆっくりと話してくれるので、特に問題を感じていませんでした。
「きっと、大丈夫だろう」
ところが、自分の考えが甘かったことに、すぐに気づくことになります。
9月を迎えて、いざハーバード大学での授業が始まってみると、周囲が何を話しているかがわからない生活に戻されてしまいました。
また、アメリカ東部の人はとくに早口ですが、私のルームメイトたちも東部出身だったため、授業だけではなく、日常生活の意思疎通すら困難です。
また、これも第1回で書いた通り、「chocolate」が「チョコレート」とカタカナの発音で、「何を言っているんだろう?」という顔をされてしまいます。サマースクールの先生のように、気を使ってもらえることもありません。
映画「ソーシャルネットワーク」を観たことはありますか?
冒頭で、Facebookの創始者マーク・ザッカーバーグが、早口でガールフレンドにまくしたてる場面があります。当時の私の周りには、ザッカーバーグのように頭の回転も話すスピードも早い学生ばかり。
頭の中で作文をしながら話しているので、どうしても会話のスピードに追いつくことができません。またスピーキング力に乏しく、「自分の英語は小学生レベルなんじゃないか」 と悩んだことをありました。
「もっとゆっくり話してほしい」と頼んでも、すぐ元のスピードに戻されてしまいます。
1対1の場面では、あまりに反応が遅いために、相手がイライラする様子が伝わってきます。数人での会話はもうお手上げ。一言も口を挟めません。
こうした状態だったため、入学してから最初の数ヵ月は、クラスメイトとの会話は苦痛でしたが、話そうとする意識は持ち続けていました。