A氏 社長は人材育成の計画もなく、事業の先を見通しているわけでもなく、(①)社員の数を増やそうとした。しかし、景気が悪くなれば当然、仕事が減っていく。その際、社員らに仕事をあてがうことができるのか……。その後も、雇用を守ることができるのか……。
筆者 社長や人事部は、そのあたりについて考えていなかったと思いますか?
A氏 少なくとも、緻密な計画や戦略はなかった。人事部は実質的には、機能していない。(②)社長と会長で意思決定がなされるケースが多い。当時、営業部と制作部は別々に採用していたが、社長たちはそれら現場の管理職から意見を吸い上げることをしていない。
筆者 「そんな杜撰な方針では問題が生じる」と、進言しなかったのですか?
A氏 問題提起はしていたが、受け入れられなかった。制作部の責任者である私にはさしたる権限がない。社長らから指示を受けるのは、「営業を5人採用したら、制作を1人雇え」といったことだけ。まさにどんぶり勘定。事業戦略と人事戦略が一致していないから、景気が悪くなるとすぐに余剰人員が溢れ返る。(③)
「このままでは倒産してしまう」
経営者から指示された30人のリストラ
筆者 その後、2008年秋にリーマンショックを迎える。その予感が見事に的中する……。
A氏 2008年の秋に、社長たちから呼ばれた。「不況が押し寄せるスピードが速い。このままでは倒産の可能性がある」と言われ、リストラを指示された。
筆者 あの頃は、「100年に1度の不況だから、リストラは仕方がない」と世間で言われていた。しかし、私は疑問でした。当時大リストラを行った企業は、物事の本質を理解することなく、突き詰めて考えることもしていなかったように見えます。
A氏 当時、リストラの最前線にいた者からすると、「人を辞めさせることは仕方がない」ことはないと思う。他の会社はともかく、あの会社ではそもそも、採用自体がどんぶり勘定だった。そして、社長や会長など創業メンバーは独特の儒教的な考えに染まっていた。