国境を越えた大ヒットひげ剃りブランドの極秘計画

 私たちは、その喩えを無意識のうちに使っているので、とくに何かを喩えて話しているという意識はない。しかし、無意識のレベルで、この喩えはふんだんに活用され、生活の中で買い物を含む様々な判断をしているのだ。

 つまり、メタファーとは、私たち人間の「なんとなく」の正体が見え隠れする、日常生活に巧妙に仕組まれた「隠し絵」のようなものである。日常会話や表現に無意識にまぶされたメタファーに注意深く目をこらせば、商品やサービスが脳の角回でどう処理され利用されているのか、あるいは拒否されるのかといったことも見えてくる。

 そして、脳が無意識に知覚しているメタファーと矛盾するような広告やパッケージは、買い物の寸前で認知不協和を起こす。反対に、的確なメタファーのもとで材質からネーミング、広告までが完全に統一された商品は、国境を超えてすばやく、かつ強く需要されることがある。

 1998年夏、全世界で一斉に発売され、瞬く間に使い捨てひげ剃りのナンバー1シェアを勝ち取ったあるブランドがある。このブランドは、今でこそ当たり前になった、複数刃を持つ替え刃式ひげ剃りの草分けだ。

 750億円の開発費と7年もの歳月をかけて開発されたこの商品は、大株主のウォーレン・バフェットを含む取締役陣にすら、発売9ヵ月前までその全容を明かされていない。それほどまでに厳格な秘密主義で開発は進められ、関係者の家族・親族にまで秘密保持契約を結ぶという慎重さで導入されたという。

 コードネーム「225タスクフォース」と名付けられたこのブランドの名前とは「マッハ・スリー(Mach 3)」。ジレット社の3枚刃ひげ剃りとして広く知られた商品である。

 ジレット社はなぜ、ひげ剃りにジェット戦闘機を連想させる名前をつけたのだろうか?

次回更新は9月11日(水)を予定。


【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

『なぜ脳は「なんとなく」で買ってしまうのか――ニューロマーケティングで変わる5つの常識』(田邊 学司:著 小野寺 健司:編著 萩原 一平/三浦 俊彦:監修)

第4回 <br />極秘で進められた750億円のマーケティング計画 <br />商品名にも紛れ込むメタファー(喩え)とは何か?

コカ・コーラ、資生堂、ホンダ、ユニ・チャーム、竹中工務店、コルゲート…国内外の企業がいま注目する最新マーケティングの正体!なぜ、同じような商品ばかりが店頭に並んでしまうか?アンケートやフォーカス・グループ・インタビューからは読み取れない、言葉にできない消費者の“ホンネ”に脳科学で挑む。

 

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