ある酒蔵との出会いが生んだ、
こだわりのものづくりを支える「金融プラットフォーム」
――事業で実績を積み重ねていかれる一方で、2007年には音楽ファンドだけでなく、事業者のファンドも扱いはじめました。これは事業拡大を狙ったものですか。
小松 いえ。当時は、音楽ファンドとして成長したかったので、事業の横展開は考えていませんでした。でも2007年に、ある金融機関から日本酒の酒蔵をご紹介いただき、「せっかくだから」とその酒蔵の方と酒米を生産されている徳島にお邪魔したんです。
――徳島まで……。
小松 はい。そもそも、僕はあまり日本酒を飲まなかったんです。ですから、相手のことを知るには、まずは伺った方がよいだろう、と。現地で酒蔵の方と田植えをご一緒させていただき、そのあと一晩かけてお酒を飲み明かしました。
――相手のことを知ろうとする姿勢がハンパないです。
小松 時間はかかりましたが、おかげで重要なことに気づいたんですよ。音楽の世界以外にも、“こだわって”ものづくりをしている人はたくさんいる、ということです。その酒蔵にも固定ファンがついていましたから、音楽ファンドと同じ仕組みを使って、一緒に戦うことができると考えました。これが、のちに生まれたマイクロ投資プラットフォーム「セキュリテ」です。
――でもミュージシャンと違って事業者は、お金に困っていたら、銀行から借りるという方法もあります。
小松 ええ、そうですね。正直、資金調達コストは、ファンドより銀行を利用した方が低い場合もあるんですよ。でも借りることができない現状もあります。
たとえば、製造に3年かかる純米酒(日本酒)。「こだわって造っている」といえばカッコイイですが、要は3年間、売上にならないということです。
――体力がないと、3年間もこだわっていられない。
小松 固定ファンがいたら、3年後には売れるかもしれない。でも多くの金融機関は、「将来売れるかもしれないお酒」にお金を貸せません。だから事業者は、3年間ひたすら身銭を削っています。
――それが現実なんですね。
小松 はい。でもファンドなら、償還が3年後になっても問題ありません。3年かかる農業プロジェクトにも使ってもらえます。真剣な、足の長いものづくりには向いているのです。