人間の脳を起動させる7つのメタファー

 人間の認知の仕組みである「メタファー」に着目し、それをなんとか捕まえ、マーケティングに活用しようとしたのが、ニューロマーケティングの古典ともいえる「ZMET(ジーメット)」だ。ZMETとは、ハーバード大学名誉教授のジェラルド・ザルトマン博士が1995年に考案・開発した、認知心理学・神経言語学等を応用したマーケティングリサーチのテクニックである。

 現在、この手法を独自のインタビューから解析まで一貫したシステムとして特許化して、全世界のZMETプラクティショナーのライセンシングと品質管理・指導を行っているのが、アメリカのピッツバーグに本拠地を置く「オルソン・ザルトマン・アソシエイツ(OZA)」である。厳格なトレーニングシステムと独自のソフトウエアを使って、様々な対象者の根底に共通する知覚の仕組みを紐解いていく。

 ZMETのライセンスを保有する会社はごく限られているため、日本国内での認知は必ずしも高くないものの、ハーバード大学をはじめとする米国のビジネススクールでは、マーケティングの1年目の基礎授業として、ケーススタディを実践しているところもある。それくらい、「なんとなく」の可視化技術としては世界的スタンダードだと言ってよい。

 ザルトマン博士によると、人間の脳には、文化や言語を超えて世界を把握する思考のテンプレート「ディープメタファー」というものが存在するという。ザルトマン博士と息子のリンゼイ氏の共著『Marketing Metaphoria(マーケティング・メタフォリア)』(Harvard Business School Press)によると、人間はシンプルな7つのメタファーと、その組み合わせで森羅万象を「自分ごと化」しようとしていることが紹介されている。

  1. 1. BALANCE(バランス)
  2. 2. TRANSFORMATION(変容)
  3. 3. JOURNEY(旅)
  4. 4. CONTAINER(容れ物)
  5. 5. CONNECTION(つながり)
  6. 6. RESOURCE(資源)
  7. 7. CONTROL(コントロール)

※()は筆者による補足。

 たとえば、ディープメタファーの1つ「コンテナ」は、人間が容れ物(コンテナ)のようなものを無意識のうちに思い浮かべ、そこにエネルギーや満足度などが入ったり減ったりする状態をイメージしていることがあるという。「疲れ」が減ったり、「精力」が満ちあふれたり、「アイディア」が一杯詰まっていたり、それぞれの内容物に合った容れ物の形や大きさがあり、容れ物の中が減ったり増えたりする原因や、その仕組みというのがあるはずである。

 同じように、商品の機能やパッケージデザイン、ネーミングが、そういった目に見えない気分や気持ちの様子にぴったりと符合していれば、すばやく手にとり使ってみようと思うだろうし、どこかで矛盾するならそれは売れない商品になってしまう。

 優秀な営業マンはメタファーの使い方がうまいという。反対に、ダメなセールスは、機能や特徴をそのまま表現し、顧客の脳が起動するチャンスを作れていない。はたして、あなたがいま扱っている商品やサービスは、そうした無自覚のメタファーについて、脳がパズルを組み立てたくなるように注意深く設計されているのだろうか。


【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

『なぜ脳は「なんとなく」で買ってしまうのか――ニューロマーケティングで変わる5つの常識』(田邊 学司:著 小野寺 健司:編著 萩原 一平/三浦 俊彦:監修)

コカ・コーラ、資生堂、ホンダ、ユニ・チャーム、竹中工務店、コルゲート…国内外の企業がいま注目する最新マーケティングの正体!なぜ、同じような商品ばかりが店頭に並んでしまうか?アンケートやフォーカス・グループ・インタビューからは読み取れない、言葉にできない消費者の“ホンネ”に脳科学で挑む。

 

ご購入はこちら⇒
[Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb] [楽天ブックス]