写真 加藤昌人 |
五感を通じて情報を取り込む「入力」、認知・分析して反応を決める「演算」、行動・表現に移す「出力」――。人間の脳は、この3つを繰り返し行なうが、将棋とは、その大部分を「演算」が占める、特殊な競技だ。相手の一手を受け、その後の展開を「コマ送りのように推理」、次の最善の一手を選ぶ。
羽生善治3冠が小学6年生のとき優勝した「小学生名人戦」を、過去最年少の小学4年生にして制覇、神童揃いの将棋界にあって、ずば抜けた早熟ぶりを見せつけた。
「早見え早指しながら、読みがきわめて的確」と、師匠の所司和晴7段は入門当時から群を抜く“演算力”に一目置いていた。
趣味の競馬でも、過去のレースをそのまま映像として記憶しており、この頭脳の中の莫大なデータを基にウマを観察すれば、レースの展開が読めるのだという。
20歳で棋界最高位の竜王を奪取し、連続在位は3期に及ぶ。報道陣のカメラに囲まれ行なわれる最近のタイトル戦には、張り詰めた異様な空気が漂う。この非日常的な緊張のなかで、「どんな奇手で揺さぶられても、その先を読み切らなければならない」。その精度の高い演算力を磨くには「日常こそ大切」なのだという。
棋譜の研究を欠かさず、2歳の息子の遊び相手になり、ブログをしたため、競馬や野球観戦に興じる。羽生世代を脅かす異才を、豊かな「入力」が支えている。
(ジャーナリスト 古川雅子)
渡辺 明(Akira Watanabe)●棋士・竜王 1984年生まれ。将棋好きの父親の影響で幼稚園の頃から将棋を始める。1994年に小学生名人戦で優勝、奨励会入り。2000年に4段、プロデビュー。2005年9段。獲得タイトルは竜王3期。今年3月、世界最強の将棋ソフト「ボナンザ」に勝利。6月、棋聖戦挑戦者となる。