会社がどういう状況か無関心だったから赤字が続いていた

田中 毎月、月次のP/Lを社員全員で共有されていますが、P/Lのことぐらいは社員にわかっていてもらわないと困るという気持ちがありますか?

 会社が今どういう状況なのか無関心だったから赤字が続いていたわけですよ。だって、誰も知らなかったんですから。この会社に来たとき、赤字を垂れ流しているにもかかわらず、「これはどうなってるの?」って聞いても、誰も細かいことを知らないわけですよ。

田中 苦しくなった会社というのは、みんなそうですよ。

 人間には、都合の悪いことはオープンにしたくないという心理が働きます。だから、私は都合の悪いことこそオープンにしなさいと言っています。「悪い情報を最初に持って来なさい」と。

田中 悪いニュースを伝えてくる行為を褒めなければ浸透しませんよね。

 良いことはみんな言いたがります。でも解決すべき課題は悪いところにあるわけですから。良いところというのは「まあ、よかった」にしておいて、悪いところを直していく体質にならないと自分で歩く会社になれないんですよ。

田中 では、バランスシートも見せたりします?

 マネジャー(課長、店長)以上ですね。当社にも30人くらいいるでしょうか。

田中 キャッシュフローのお話しはどうでしょう?

 経営会議ですね。執行役員メンバーにはキャッシュフローまで含めて話します。

田中 P/Lは一般社員、バランスシートはマネジャー、キャッシュフローは経営陣、とキレイに分かれますが、それは森さんのスタイルなのか、それともこの会社に来てそうされたのでしょうか?

 私なりに判断をして決めています。役にも立たなければ日々の行動にもつながらない話をしても無駄なわけです。ですから知るべき人にまず完璧な理解を求めます。役員クラスには、キャッシュフローがこうなっているので銀行から借金をしますよと説明します。だから頑張って在庫を減らそう、という動きにもなるわけです。

田中 カッシーナ社の商品は高額の耐久消費財ですが、やはり在庫回転率は一番重視されている指標ですか?

 商品部にはものすごく言っていますね。月に1度、在庫報告をさせています。

田中 では、ほかの部門で重視している指標は何ですか?

 営業部門は、基本的に経費ですよね。家賃は彼らのせいではありませんから、それ以外の販管費です。人員配置は適正なのか、生産性がどうなのかも見ていますね。

田中 レナウンやカッシーナ社など衣食住に関わる会社の社長を務めてきて、その都度、計数管理のやり方は変えているのでしょうか?

 会社の規模、個性、会社にいる人たちのレベルなど、それに合わせてやってあげないといけませんよね。その人に何の関係もないのに「興味を持て」と言っても酷だと思います。経営陣だけが知っていれば済むような数字を言われても、それはかわいそうですよね。もちろん、積極的に知りたいという社員がいれば教えますよ。べつに隠しているわけではありませんから。

田中 そこから先は好奇心の話ですからね。

 最終的には仕事は好奇心だから、自分で知りたいと思ったら、人間みんな知るようになると私は信じているわけです。そういう気がない人間にいくら教育や研修をしたって、何の役にも立たないというのを私はいっぱい経験してきましたし。

田中 喉の渇きを覚えない馬に無理やり水を飲ませることはできませんからね。

 そう、水を飲まないんですよ。

田中 ところで、会社の再建を引き受けるかどうかを決めるときは、ご自身でデューデリジェンス(財務内容の精査)をしますか?

 過去3年間の決算書を自分なりに見て、どこに問題があるのか想像しますよ。

田中 具体的にどういうところを見ていますか?

 売上が落ちていった原因は何だろう、粗利がこれだけ悪くなった原因は何だろう、経費はどういうふうに推移しているんだろう、キャッシュはなぜこんなに急激に悪くなったのかな、在庫はどういうふうに推移しているんだろう、など。投資ファンドがやるほど細かいデューデリジェンスではありませんが、自分なりの視点で「私だったら、ここをピュピュッと直したらこうなるんじゃないかな」といった仮説を立てますね。

後半は10月9日更新予定です。


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