天高く馬肥ゆる……ではないが、秋から冬に過食傾向に陥る方は案外多いのではないだろうか。健康的な食欲ならまだしも、どか食いを繰り返し、さらに「気分の落ち込み」が加わるようなら、季節性のうつかもしれない。
秋から冬にかけて発症するうつ病は「冬季うつ病」と呼ばれる。典型的なうつ症状に加え、甘いものやポテトチップなど炭水化物への欲求が強く出るのが特徴。日照時間が短くなると、精神を安定させる神経伝達物質「セロトニン」の分泌量が減少する。その不足を補うためセロトニン産生に必要な糖質を欲するのだ。冬の日照時間が短い北欧では、人口の1割がこの症状に悩んでいるとされる。
さて、その北欧は東フィンランド大学から、うつ病と食事との関連について報告が出された。中高年男性の食習慣と心疾患、2型糖尿病などの関連を調べるうち、うつ病との関連が浮かび上がり、あらためて追跡調査を試みたもの。
その結果、新鮮な野菜や果物、全粒穀物、鶏肉や魚、低脂肪のチーズを中心とした「健康的な食事」はうつ病リスクの低下と関連していた。また、以前から予防効果あり、とされてきた葉酸(レバーやホウレン草などに含まれる)の摂取と、リスクの低下があらためて示された。しかし、同じく予防効果ありとされてきたビタミンB12の摂取量や、EPAなどω-3系・ω-6系脂肪酸の血中濃度との関連は認められなかった。
一方、うつ病リスクを悪化させる食物には、ハム・ソーセージなど加工肉、菓子パン、スイーツやスナック菓子、糖分が多い飲料、ポテトフライなどジャガイモの加工品と、ジャンクフードが並ぶ。ジャンクフード依存がうつ症状を招くのか、その逆かは明確ではないものの、不健康な食事が悪化要因になることは確かだろう。
気分が落ち込み「甘いもの」「口当たりのよいもの」が恋しくなるのは人情だ。ただし、うっかり耽溺するのは考えものである。この季節の落ち込みの特効薬は午前中のうちに強い光に当たること。専用の人工照明もあるが自然光で十分だ。晴れた日も、曇り空でも、カーテンを思い切り開けよう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)