母語にプラス、1言語以上を話す能力がある人は万が一、認知症を発症しても進行が遅いようだ。米国神経学会誌に掲載された調査結果から。
調査では648人(平均年齢62歳)の認知症患者を対象に、発症時期と教育水準や性別、職業などについて聞き取りを行っている。その結果、2言語以上を話す「バイリンガル」では、発症時の平均年齢が65.6歳だったのに対し、1言語の「モノリンガル」は61.1歳だった。バイリンガル群で4.5年発症が遅かったわけだ。
しかも、アルツハイマー型や性格が狷介になりやすい前側頭葉型認知症、あるいは動脈硬化性の認知症の区別なく発症が抑制されたのだ。ただ、認知症はいつ発症したのか特定しにくい。発症もそうだが、認知症の自他覚症状がはっきり出るまでに時間がかかる=進行速度が遅くなる、といったほうがよいかもしれない。
この試験のポイントは、南インド中南部の都市「ハイデラバード」で調査が行われたこと。インドには珍しく人口の4割強がイスラム教徒という地域で、公用語のテルグ語に加えてウルドゥ語やヒンディー語など複数言語が日常的に飛び交う。今回の調査でも648人中の391人が2言語以上を普通に使っていた。
実は認知症発症に絡む危険因子の一つに「低教育水準」がある。米研究グループの解析によれば、認知症患者の19%が低学歴と関連しているらしい。国内でも大学卒業以上の高等教育を受けた人は発症リスクが47%低下するという解析結果が報告されていた。
しかし、本調査の対象者は決して教育水準が高いとはいえず、読み書きが十分ではない人も含まれている。ようは学歴に関わらず、複数の言語を聞き取り、異文化の概念や言語構造を受け入れてコミュニケーションをとる日々の行為が脳の様々な部位を刺激し、認知症予防に働いたのだろう。高学歴だろうが使わない頭はサビつく。
さて、モノリンガルな日本でも男女間、世代間と異文化は転がっています。日頃の目線をズラしてコミュニケートしてみると脳が活性化される、かもしれません。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)