家庭への憧れはあるが、家族は一生持たない

大山 あとは、先ほども言いましたが、大げさに言ってしまえば家族を持ちたくないという思いがすごく強かったです。講演のような活動をする前から、偏見や差別を受けてきたので。そんな状態でもし家庭をつくったとしたら、家族に差別の牙が向けられることを懸念せざるを得ない、という思いは今も強くあります。

 家族を早くに、ましてやこういう形で失っている分、家庭に対する憧れというのは人一倍強いんです。けど、だからこそ、もし結婚して子どもが生まれたときに、「あの子のおじいちゃんは人を殺してるんだよ」と言われる可能性もある。「いい一族ではない」と差別を受けるかもしれません。

 家族を持って、子どもが生まれて、子どもが悲しい思いをしてからではもう遅い。そうなるなら、結婚や家庭を持つことを諦めて、自分が悲しい思いをするほうがよっぽど幸せだなとも思っていました。入れ墨への偏見はすごく大きいし、子どもをプールにも、お風呂にも連れて行ってあげられない。入れ墨をいれたことによって、家族への諦めもついたというのも正直大きかったと思います。自分の欲にブレーキをかけることにもなりました。

開沼 何度も同じようなことを聞いてしまいますが、普通の人は親族の殺人を隠し通して、家族も持とうとするわけですよね。そうならなかったのは、何が違ったと思いますか?

大山 心配だっただけです。隠し通せる保証はないじゃないですか。本当に、最後の最後まで隠し通せるんだったら、もしかしたら結婚してるかもしれない。でも、家族がそういう目で見られて悲しい思いをするのは絶対後悔するんで、自分が。

開沼 ただ、都会で暮らすとなると、人が多いし、人間関係の流れや移り変わりも激しいので、バレたりしないんじゃないかとも思います。そうは思いませんでしたか?

大山 たまたまと言えばたまたまですけど、同じ職場で働いていた人が広島県の呉市の出身の方だったことがあります。僕は広島でかなりやんちゃをしとったんで、顔がけっこう知られていてバレてしまいました。そうした不安の要素が1%でもあれば結婚はできないなと、僕はそのとき思いました。

 表現がおかしいかもしれませんが、将来ピアニストになりたい子が、指を落としてしまえばできませんよね。まったく一緒ではないけどそんな感じですね。純粋に入れ墨が好きという気持ちもありましたけど、入れ墨を入れることで、一種の諦めをつけさせるという意味もありました。

最愛の母親を殺害した父親を激しく憎みつづけていた大山氏。しかし、父親との面会をきっかけにある気持ちの変化が生じる。やつれて、震えながら目の前に座る父親と対面した大山氏は、いったい何を思ったのか。次回更新は、1月27日(月)を予定。


【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

大人気連載「闇の中の社会学」が大幅に加筆され単行本に!
発売後、たちまち3刷、好評発売中です!

『漂白される社会』(著 開沼博)

家庭への憧れと、家族を持ちたくない思いの葛藤 <br />入れ墨に込めた加害者家族として生きる決意とは<br />【大山寛人×社会学者・開沼博】

売春島、偽装結婚、ホームレスギャル、シェアハウスと貧困ビジネス…社会に蔑まれながら、多くの人々を魅了してもきた「あってはならぬもの」たち。彼らは今、かつての猥雑さを「漂白」され、その色を失いつつある。私たちの日常から見えなくなった、あるいは、見て見ぬふりをしている重い現実が突きつけられる。

 

ご購入はこちら⇒
[Amazon.co.jp] [紀伊國屋書店BookWeb] [楽天ブックス]

家庭への憧れと、家族を持ちたくない思いの葛藤 <br />入れ墨に込めた加害者家族として生きる決意とは<br />【大山寛人×社会学者・開沼博】

大山寛人氏の著書、『僕の父は母を殺した』(朝日新聞出版社)は好評発売中です。