被害者遺族が望まない加害者の死刑もある
大山 言葉の暴力は日常茶飯事ですが、やっぱり一番困ったのは、職に就けないことですね。僕は独り身で支えてくれる家族もいないので、仕事がないと生活できません。
社会学者、福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員。1984年、福島県いわき市生まれ。東京大学文学部卒。同大学院学際情報学府修士課程修了。現在、同博士課程在籍。専攻は社会学。学術誌のほか、「文藝春秋」「AERA」などの媒体にルポルタージュ・評論・書評などを執筆。読売新聞読書委員(2013年~)。
主な著書に、『漂白される社会』(ダイヤモンド社)、『フクシマの正義「日本の変わらなさ」との闘い』(幻冬舎)、『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)など。
第65回毎日出版文化賞人文・社会部門、第32回エネルギーフォーラム賞特別賞。
開沼 もし独身でなかったら、家族にも危害がおよんだ可能性もありますよね。
大山 そうですね。だから、僕はこれからも家庭を持つつもりは一切ありません。
開沼 そういう切実な事情を抱えている、死刑囚や親族間殺人の家族の声を聞く機会は多くはありません。にもかかわらず、大山さんが語った背景には何があったのでしょうか。
大山さんのドキュメンタリーを見ていて気になったのは、社会問題の当事者としての側面ばかりが描かれていて、大山さんご自身の人間性があまり見えてこなかったところです。社会に訴えかけたいという気持ちが芽生えたのはなぜですか?
大山 正直なことを言えば、父親を死刑にしたくなかったというのは大きかったと思います。被害者遺族が望まない加害者の死刑も存在するということを伝えて、父親の判決が覆らないかなという期待を昔は持ちながら、そういう活動をしていました。それは講演をする前の話ですけど。講演を始めたのは父親の死刑判決が確定した後です。それは気持ちが変わったきっかけでもあるのかな。ただ、ホームページは講演を行う前から作っていて、同じように苦しんでいる人からメールが来たこともあります。
そういった経験もあって、自分のように、被害者遺族が望まない加害者の死刑があること、加害者の死刑がさらに被害者遺族を深く傷つけてしまうケースがあることを知ってもらうために、誰かが動かないと何も変わらないのかなと思っていました。僕が先陣を切るといったら格好つけすぎかもしれませんけど、僕は独りだし、失うものも何もないというくらいにも思っていたので、自分から発信するようになりました。
開沼 普段、友だちとそういった話をすることはありますか?
大山 事件の内容をすべて知っている友だちもいますけど、友だちとはまったくこの話はしないですね。まあ、友だちといっても数人いるかいないかのレベルですし、あまり一緒に遊ぶこともしません。