1月20日、イランは欧米など6ヵ国と合意した核問題の包括解決に向け、その第一段階の措置の履行を開始した。この合意の履行が完了すれば、イランに対する米国やEUの経済制裁の全面解除や、米国とイランとの国交回復の可能性も出て来よう。石油をめぐる大国の利権争いの舞台となったイランの歴史を振り返ると、今回の合意の履行は「小型冷戦」の終了とも言える歴史的出来事だ。イランと友好関係を保ってきた日本にとって望ましい状況である一方、イスラエルのみならずサウジアラビアなど周辺諸国にとっては、また違った意味を持つことにも注意が必要だ。
「小型冷戦」終了という歴史的出来事
1月20日、イランは欧米など6ヵ国と合意した核問題の包括解決に向け、その第一段階の措置の履行を開始したことをIAEA(国際原子力機関)が確認した。これは昨年11月24日、ジュネーブでイランと国連安保理常任理事国である米、露、英、仏、中に独が加わった6ヵ国が合意したもので、その内容は①イランは中部のナタンズとフォルドウのウラン濃縮施設での濃縮度が5%を超えるウランの製造を凍結する、②すでに備蓄されている濃縮度20%以下のウランは濃縮度が低くなるよう再加工する、③プルトニウムの製造が容易なアラクの重水炉の建設を停止する、④IAEAの査察官が毎日現地でそれらの作業を確認する、⑤イランが合意の履行を始めれば、EU(欧州連合)はイラン産の石油化学製品や貴金属の輸入禁止措置などを停止する、⑥イランは今年2月から制裁で送金が停止されている原油代金の一部42億ドル(約4400億円)を8回の分割払いで受け取る、などだ。
天然のウラン鉱石は核分裂を起こすウラン(U235)を0.7%しか含んでおらず、核兵器に使う「兵器級(weapon grade)」ウランはU235の含有量が90%以上だ。一方原子炉の燃料とする「Reactor Grade」のウランはその含有率が3%ないし5%程度だ。その中間、20%のウランは医療用のラジオアイソトープに用いられるが、イスラエルなどは「20%の濃縮を行えば、やがて90%以上の濃縮に進む」と警戒していた。イランに5%までの濃縮を認めるのは「原子炉の燃料棒の国産は認めるが、核兵器開発につながる可能性のある物は許さない」という趣旨で、妥当な落とし所だろう。
この合意の履行が完了し、イランが核兵器開発を諦めたことが明らかになれば、イランに対する米国やEUの経済制裁の全面解除や、米国とイランとの国交回復の可能性も出て来よう。1979年2月のイラン革命で、極度に親米的だった皇帝モハンマド・レザー・パフラヴィー(日本では一般的に「パーレビ国王」と呼んだ)が亡命を余儀なくされ、米国は彼を受け入れた。このため、イランの学生デモ隊がテヘランの米大使館に乱入、大使館員や警備の海兵隊員、それらの家族52人が1年3ヵ月間も大使館に閉じ込められた「イラン人質事件」以来35年間も敵対関係となったアメリカとイランに和解へのドアが開かれたことは、「冷戦終了の小型版」とも言えるまさに歴史的な事象だ。双方と友好な関係にあった日本にとっては歓迎すべき状況で、経済上の利益も少くないと考えられる。