一見、どれもよさげな
志望理由だけれど……

 例えば、僕が指導をしているスクール・我究館のT君を例に挙げよう。
 彼は、就職活動をはじめた当初、幅広く企業を見るために、業界を問わず説明会に行っていた。
 業界地図も購入し、興味ある業界の上位3社に次々とプレエントリーをしていった。
 どこの企業も魅力的で、自分の価値観に合うものも多かった。なので、興味を持てたところにはとりあえずESを提出することにした。例えば、次のような志望理由をどんどん書いていく。

・銀行では「幼い頃から日常的に銀行と触れ合う機会は多かったし、日本の中小企業を支えている銀行の存在は大きい。自分も一員になりたい」
大手メーカーでは「これからは世界競争の時代だ、日本のプレゼンスを高めるためには、日本を代表するメーカーの製品を世界に売りにいきたい」
食品メーカーでは「友人や家族との絆を育む場所にはいつも食べ物があった、これからは、そのような場を提供できるような人生を送っていきたいと思う」
広告では「学生時代、サプライズパーティなどで友人を喜ばせてきたので、これからも人に感動を届けるような仕事がしたい」
商社では「学生時代、挑戦することを大切にしてきた。商品にしばられずに挑戦を続けている商社の姿勢に共感した。なので、自分もその一員になりたい」

 どれも思っていることを正直に書いている。
 ただ、書けば書くほど、さっきまで語っていた夢と、次の企業で語る夢の違いに自分でも頭が混乱してしまっていた。
「どれが本音なのか」自分でも分からなくなってしまったのだ。
 次第にESを書くのが苦痛になってしまい、書くことも、提出することもできなくなってしまった。