オックスフォードのヨット部で身につけた広い視野

 何よりも、ときに苦しく、また成し遂げたときの達成感がとても大きかったのは、余暇で行うはずだったヨットセーリングの活動でした。

ケンブリッジ大学との対抗戦の様子

 卒業までに、私は、王立ヨット協会および英国海上保安庁公認の沿岸航海士(RYA/MCA Yacht Master)の商用船長資格を取りました。また、オックスフォード大学ヨット部の財務部長を2年務め、第2回でも触れた通り、2011年度の大学代表選手としてケンブリッジ大学に勝利し、2011年のBUSA(全英大学対抗戦)で全英12位の成績を収めることも叶いました。

 もちろん、ヨットレーサーとしての自分はたいしたことはありません。ポジションはそこまでの経験を求められないバウかマスト(ともに船の中央から先端で帆を取り扱う乗組員)で、日本の経験豊かなヨットレーサーの方々との勝負では、まったく勝ち目はないでしょう。ただ、ヨットクルーザーの船長としては、沿岸航海で想定できる大抵の状況には対応できるスキルと経験を身につけました。

 ワイト島沿岸を何十回も航海し、ときにはコーンウェルにまで航路を伸ばし、さらには英仏海峡をも渡ったこともあります。また、スイスやスコットランドの湖でも船を浮かべました。そして、ギリシャ、トルコ、フランス、イタリアでも1週間以上にわたり船長として航海することができたのは、これ以上ない思い出の数々となりました。

 ヨーロッパでは、ヨットは安価で借りられるため、スキーやスノーボードに行くよりも安く楽しむことができます。また、多くの人々が親しむスポーツなので、この経験によって年配の方とも会話が弾むことがありますし、いろいろな人たちと体験を共有できるスポーツなのです。

 海の上で考えることは、机の上で考えることとはまったく異なるものです。しかし、船の中で考えることは、会社の中で考えることと似ているものがあります。見たこともない美しい景色を眺めながら、大自然と対話して船を進める経験と同時に、生粋のヨットセーラーたちと真剣にぶつかり合い、成果につなげることができたのは、小さくとも、自分自身が誇れる経験でした。

 それは、私が、経営や組織といった言葉を幅広く捉えることができるようになった理由なのかもしれません。

 今となっては良い思い出ばかりが目に浮かびますが、実際は、厳しい勝負の環境にあり、お互いに罵倒しあうことも珍しくはありませんでした。

 しかし、だからこそ、だと思います。オックスフォード大学を後にすると伝えると、主要なメンバーが集って、私にシャンパンとクラブのタイをプレゼントしてくれました。その瞬間には、起業していたときとも、コンサルタントとして戦っていたときとも、博士論文を執筆し終えたときとも異なる感動を覚えました。