「派遣切り」という言葉が、頻繁にメデイアに登場する。新入社員の内定取り消しが、後を絶たない。雇用不安の深層を、湯浅誠氏に聞いた。NPO自立生活サポートセンター・もやい事務局長として生活困窮者を支援しつつ、雇用問題に積極的発言を続ける湯浅氏は、「非正社員と正社員の労働条件の切り下げ競争が進んでいる」と指摘する。
湯浅 誠/NPO自立生活サポートセンター・もやい事務局長 撮影 加藤昌人 |
―1990年代半ば以降、経済の低迷が長期化し、コスト削減圧力が高まる中で、企業は雇用形態の多様化を進め、パート、派遣、業務請負と非正規社員の雇用を拡大してきた。今、景気後退に直面し、非正規社員の雇用不安が非常に高まっている。
経営者の本音は、こうした不況期のために非正規社員を増やしてきたということだろう。今も10年前も、非正規社員が雇用の調整弁に使われることに違いはない。
だが、今と10年前とでは、仕事を失った人々が受けるダメージがまったく違う。今は、生活ができなくなってしまう人が増えている。
―この10年間に、何が変化したのか。
非正規社員は、例えば、地元に帰れば親がいる、季節限定の出稼ぎで生活基盤は別にある、主婦のパートには十分な収入のある夫がいる、つまり、仕事を失っても、苦しくはなるだろうが生活はできる人々だ、と説明されてきた。その一方で、正社員は職場で重要な役割を果たし、家族を養う重責を担う、だから雇用は守らなければならない――これが経営者の論理だった。
だが、この10年間でわかったことは、いわゆるワーキングプアが非正規社員のなかに混じっていることだ。帰る親元などなく、住居を持たず、さまざまな理由から仕事を奪われたら即座に生活できなくなってしまう人々だ。彼等が増えてから、今回が初めての不況だ。
―だが、景気後退に対応するために、経営者は非正規社員の雇用に手をつけることに躊躇しないだろう。