健康法以外にも前向きに
生きるためのヒントが満載

 病に屈しないための知恵や工夫は、100歳を過ぎてなお活動を続ける現役医師の方法論であるだけに説得力がありますが、じつは本書の最大の魅力は、二度の大病や太平洋戦争、「よど号」ハイジャック事件、そしてサリン事件など、いのちを脅かされる事件に幾度も遭遇し、それらの試練をその都度乗り越えてきた著者だからこそ語れる使命感や達成感、充実感がそこかしこにちりばめられているところにある――。筆者は密かにそう思っています。そしてその使命感・達成感・充実感は現代を生きるビジネスパーソンにもっとも必要とされるものだと考えます。たとえば、「コミットメントを果たす」で、著者は以下のように記しています。

 未来の約束は、生きる原動力。大切な人との果たすべき約束は、生きがいになります。そのため私は、予定を「アポイントメント」とは呼ばず、「コミットメント」と呼ぶようにしています。アポイントメントは、変更可能な予定というイメージですが、コミットメントとは、神と交わす約束のような、達成すべき義務に近いもの。私にとっては、いわば人生の目標となる感覚です。(26~27ページ)

 また「3つの『V』をもつ」で、キリスト教プロテスタントの牧師として伝道活動をしていた実父が常々口にしていた言葉を紹介しています。

 第一のVは、ビジョン。将来を見すえた、大きな展望を指します。第二のは、ベンチャー(冒険心・開拓心)。未来を開く勇気ある行動がなければ、ビジョンは完成されないという意味です。そして第三のは、ビクトリー(勝利)。ビジョンを描き、勇気をもって行動すれば、いつか夢を手につかむことができるということです。(14~15ページ)

 なるほど。これらはさっそく活用できそうですね。一方で、苦難に見舞われたときや強いストレスに襲われたときなど、どんなときでも前向きに生きるためのこころのあり方にも言及しています。

 大病をする、失職する、会社が倒産する、家族を失う――。さまざまな困難や苦しみ、悲しみを、誰もが人生のなかで経験します。私も10歳で腎炎を、20歳では肺結核を患って生死の境を彷徨(さまよ)い、苦しみました。今の私があるのは、じっとそれらに耐えたからです。

 辛い気持ちで耐える。それを「辛抱する」といいます。辛い心を自分で抱きしめながら、再起する日をじっと待つなかで、かならずどこかに救いの光があります。耐えて待つことは容易ではありませんが、そんなときには、竹の葉を連想してください。冬に雪が積もると、竹の葉っぱは雪の重みで垂れ、頭を下にしているけれど、日一日と温かくなり、春を迎えるころには雪が溶け、撓(たわ)んだ竹の葉は元に戻ります。困難にあってもじっと耐えて待っていれば、人間の心も、竹の葉のように元通りになる日が、きっと来るのです。(62~63ページ)

 ストレスには、DISとEUの2種類があり、新しい体験による高揚感をもった緊張感にあたるEUストレスは、良いストレスです。
……一方、
DISは、前進を拒まれるようなときに感じるストレスです。
……
DISストレスを受けたときは、柔らかい鉛の棒をイメージしてください。ぐにゃりと曲がった棒は、時間がかかっても、いずれ元の棒に戻ります。ストレスも、無理に反発せずに、神様の忠告と素直に受け入れ、時間をかけ原因を考えてみる。ときには家族や友人たちの力を借りることで、ストレスは癒え、やがて鉛の棒のように、心の傷も元通りに戻るのです。(54~55ページ)