当時は「深く考える」の意味がわからなかった

小西 僕が博報堂に入ったのは、ちょうどバブルが終わった頃でした。「今どき広告会社に入ってくるバカヤロウは誰だ?」って言われたところから始まったんです。
 で、最初に入ったグループの先輩から「お前向いてないから、辞めたほうがいいよ」って毎日言われ続けました。ショックでしたね。佐々木君も最初からそんなにスラスラ書ける方ではなかったから大変だったよね(笑)。『伝え方が9割』にも、自分が言葉を練るなんてどうしていいかわからなかったと書いていたけど、確かに、当時困った顔をしていたのを思い出しました。

「相手の立場になって、考え抜いているか」<br />【佐々木圭一×小西利行】(前編)佐々木圭一(ささき・けいいち)
コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師 上智大学大学院を卒業後、97年大手広告会社に入社。後に伝説のクリエーター、リー・クロウのもと米国で2年間インターナショナルな仕事に従事。日本人初、米国の広告賞One Show Designでゴールド賞を獲得(Mr.Children)。アジア初、6ヵ国歌姫プロジェクト(アジエンス)。カンヌ国際クリエイティブアワードでシルバー賞他計3つ獲得、AdFestでゴールド賞2つ獲得、など国内外51のアワードを獲得。郷ひろみ・Chemistryの作詞家としてアルバム・オリコン1位を2度獲得。

佐々木 僕が言葉は不得手だったと言うと、よく誇張しているみたいに思われるんですが、本当に全然できなかったんですよ。

小西 あの頃の佐々木君は打ち合わせの場で、理屈を言っていたよね。「AとBが掛け合わさると、この言葉ですよね」って(笑)。だから、結局この本に書いてあることは当時から言っていたなぁって思い出しました。ここまで体系立てられてはなかったけど、言っていることは変わらないし、どちらかといえば理系的な考え方だったよね。

佐々木 必死だったから(笑)。ヒントもないし、何もできないし、「ひらめけ」と言われてもひらめけないし。「どうしよう」って悩みました。

小西 そうだね。そんなに簡単にはひらめけないよね。たとえば、コピーを100枚書いて提出すると「お前、もっと深く考えて来いよ」って突き返される。だから「僕、昨日徹夜して考えてきたんですけど…。」「それ以上は、もう人として時間的に無理だと思いますよ」って返しても取り合ってもらえず、じゃあ、もっと違う角度からいろいろ考えてみようと思って、場所を変えてカフェでコピーを書いたこともありました。でもそれでもやっぱり捨てられて「『もっと深く考えろ』って言ってるじゃん」って言われるんですよね。僕は「深く考える」という意味がわかってなかったんです。

佐々木 当時、小西さんから「アイディア・マシーンって知ってる?」と言われたのを覚えています。それが『伝わっているか?』に書いてあるメソッドの原型だと思うんです。「アイディアって作るのは難しいけど、実はひらめきを導く法則がある」という意味だったんですよね。

小西 「スロットマシーン」のように、偶然出て来た言葉を組み合わせるんだよね。

佐々木 まさにそうです。「何か新しいものは、組み合わせで作ることができる」と。「今まで出合ったことのない言葉を組み合わせると、突然それが新しいものになる」みたいな話をされていましたね。

小西 人は考える時に脳みそを使うけれど、脳の中で全然違う所がガチャって結び付いた時に「ひらめき」が生まれます。それがアイディアだとすると、たとえば「本」という言葉から思いつくことをいっぱい書いて、次に「バナナ」という言葉から思いつくことを書くと、一見関係のない「本」と「バナナ」が結ばれる組み合わせからひらめきが芽生え、それがアイディアになるんです。バナナの皮で紙をつくり、それを束ねて本にしてみるとかね。頭の中で可能性を探ってみるんです。ちょっと理屈っぽいけどね(笑)。