目に見える結果を出し続けることが
経営では求められる

並木 そこからどうやって挽回したんでしょう?

川鍋 その失敗してしまった新規事業と同時期に、コンサル的なアプローチで開始したプロジェクトがいくつか実を結んだのが大きかった。同時に10個ほどのプロジェクトを走らせたのですが、中でも一番ヒットしたのはハイヤーの顧客別利益の分析でした。これは極めてシンプルで、縦軸に利益率、横軸にボリュームをとったチャートを作成して、クライアント700社の状況をプロットしていっただけなんです。本来なら、右にいくほどボリュームディスカウントが発生して右下がりの線を描くはずなのに、“夜空のお星さま”状態になっていた。

インタビュアーの並木裕太さん

 社内で値上げの必要性を訴えた時は、現場の営業担当者たちに「これまで80年以上の会社の歴史上、一度も値上げなんてしたことありません」と言われて猛反対されました。しかしそのチャートを見せて、いかにいびつな状態に陥っているのかを明確に伝えると納得してくれた。顧客を回って丁寧に説明したところ7割の取引先が値上げに応じてくれて、わずか3ヵ月後には年間利益で5000万円ほど改善したんです。こうして結果を出すことで、社内での私に対する信頼感を回復することができました。

並木 なるほど。10のプロジェクトのうち、他にはどんなものが成功したんでしょうか。

川鍋 乗務員の採用に関する改革ですね。うちは伝統的に全国紙やスポーツ紙に募集広告を打っていて、そのコストが1ヵ月あたり1000万円に達するほどでした。当時は有料就職情報誌が出始めていた頃で、そちらに広告を出すとコストあたりの応募数が4倍くらい良かった。全国紙の方を抑えて、情報誌への出稿を増やすように採用の責任者に提案したんですが、古くからの付き合いがあるからと言って動かない。そこで採用部署の有料情報誌への広告出稿を一時的に完全に止めて、その代わり、私の管轄するプロジェクトチームのコントロール下で有料情報誌に出稿してみました。すると案の定、一気に採用者数が増えたんです。

 こうした媒体ごとの費用対効果を分析するプロジェクトも、私がコンサル出身でなければやろうとも思わなかったはずですし、やったとしてもこんなにうまくいったとは思えないですね。

並木 コンサルの経験があったからこそ、短期間で目に見える結果を出し、社内での発言権を確保していくことができた、と。

川鍋 やっぱり結果を出し続けていくことが経営では求められる。そのためには問題解決能力は必須のスキルです。コンサルタントを経験した人は自分で問題を解決するクセが刷り込まれているので、日本交通に入った当初こそ役に立たないと思っていましたけど、今になってコンサルのバックグラウンドをもつことの重要性を再認識するようになりました。

並木 川鍋さんが日本交通の経営者として、コンサルを使うことはありますか?

川鍋 実のところ、ほとんどありませんね。というのも、とにかくお金がないところからスタートしたので、むしろ外部委託をやめさせて何でも自分たちでやろうと努力し続けてきたんです。戦略構築などを外部にお願いしてみよう、というマインドには正直まだなれません。日本交通はまだまだコンサルティング・ファームのお世話になるほどの会社じゃないだろう、という思いもどこかにあります。