今回の安倍首相の解散権行使を、過去のさまざまな衆院解散と比較しながら考えてみる。過去の衆院解散にはさまざまな理由があった。それらは以下のように整理されるだろう。

(1)「国論を二分する争点を巡って、国民に信を問う場合」(小泉内閣「郵政解散」など)
(2)「失政、失言等により解散に追い込まれる場合」(麻生内閣「政権選択解散」、吉田内閣「バカヤロー解散」など)
(3)「内閣不信任案可決」(宮澤内閣「嘘つき解散」、大平内閣「ハプニング解散」)
(4)「議席増の勝算を考慮した解散」(中曽根内閣「死んだふり解散」など)

 今回については、安倍首相は「消費増税先送りの是非」の信を問うためと主張している。(1)に類する解散だと考えられる。だが、既に述べたように「消費増税の是非」に与野党間に論争はない。

 「自民党内に消費増税先送りに反対する議員がいるから解散するのだ」という指摘もある。しかし、増税撤回というわけではなく、あくまで1年半の先送りにすぎない。自民党内に「三党合意」を実現させた財政再建派は確かに存在する(第82回を参照のこと)が、党から除名処分を受けたり、離党したりするほどの問題ではないだろう。首相もまさか「刺客」「踏絵」戦術を繰り出すわけにはいかない。小泉内閣の「郵政解散」のように、与野党の議席が拮抗しているわけではなく、安倍首相は参院で法案が否決されても衆院で3分の2の賛成を得て再可決できる「スーパーマジョリティ」を持っているのだ。わざわざ議席を減らす「分裂選挙」をやる意味はまったくない。

 一方、野党側をみると、みんなの党、維新の党、社民党、共産党など元々消費増税に賛成していない党のみならず、消費増税を実現した民主党でさえ消費増税先送りに賛成だ。海江田民主党代表、岡田克也民主党代表代行ら執行部のみならず、消費増税を実現した張本人の野田佳彦前首相でさえ、消費増税の先送り自体は容認しているのだ。要するに、与野党の誰も実質的に反対していない政策を「総選挙の最大の争点」に据えているという、珍妙な解散権行使であるといえる。

 以前この連載では、安倍首相が重要争点をことごとく隠した2013年7月の参院選挙を「究極のポピュリズム選挙」と評した(第64回を参照のこと)。だが、今回の選挙はそれ以上の「超・究極のポピュリズム選挙」だろう。「景気が悪いので増税を延期していいか?」と首相から問われれば、国民の誰も反対しないからだ。また、安倍首相は景気悪化への対応として、先日の「黒田バズーカ・2」に続いて大規模な経済政策を打ち出すという。支持率低下を恐れ、誰も反対しないことしかできない安倍首相の「八方美人的」な性格が露骨に出ているといえる(第80回)。

 更にいえば、安倍首相が消費増税の延期を争点に国民に信を問うことは、万が一日本が財政破たんした時は、「『国民の責任』、であります」と言って逃げる道を用意したことを意味する。「バカなことを言うな」と言われそうだが、首相はかつて、2%の物価上昇目標の達成を「日銀の責任」だと繰り返し国会で発言した(第63回を参照のこと)。第一次安倍内閣時の「政権投げ出し」という前歴もある。安倍首相がいざとなったら逃げ出すのを疑うのは当然だ。

 結局、経済状況が悪化する中、不人気な消費増税を決断する胆力もなければ、国際公約でもある財政再建(第68回を参照のこと)が遠のくことへの国内外の批判にも耐えられない。「国民の責任」にして逃げたいというのが安倍首相の実像だということだろう。