「双子の遺伝子」が教えてくれる
遺伝よりも大切なこと

 一卵性双生児の1人が同性愛者で、もう1人が異性愛者であるケースもあります。私はその2人と話しましたが、2人ともアーティスティックで、クリエイティブで、何もかもが似ていました。でもたった1つの人生の出来事が、2人の性的傾向に影響を与えたのです。18歳ごろ彼らが親元を離れた後、それぞれ異なる最初の性的経験をもったことです。それが彼らの性的傾向に大きなインパクトを与えた可能性があります。

 もっと興味深いのはそういう2人は性格も非常に似ていて、似ていることが運命であるように思ってしまうことです。ところが実際はそうではなく、「影響されやすさ(susceptibility)」があり、人生のさまざまな出来事が、遺伝子がまったく同じでも違う人間にしてしまう、という現実があるのです。我々人間という存在を非常に興味深いものにしているのは、そういう面なのだと思います。自分たちが思っている以上に、我々には多様性があるのです。

――エピジェネティクスを何年も研究してきて、この本を執筆するという決断をしたのは、「遺伝子神話」を打ち砕くためですか。

 そうです。10年前まで、私自身遺伝子がすべてだと思っていました。その間違った神話を広めることすらしていました。でも一卵性双生児をエピジェネティクスの観点から研究することで、遺伝子は我々の体にある大オーケストラの非常に小さい部分であることに気づきました。他の人もこのことを認識して、我々は自分自身の運命を自分でつくりだせる、つまり自分の遺伝子の奴隷ではないという事実をきちんと認識することは重要だと思います。

(了)