画期的な支援方法の背景にある
「構造構成主義」
「僕のやっている『構造構成主義』とは、『無形の型』みたいな、何にでも通用する『原理』なんです。価値の原理でもあるし、方法の原理でもあって……。たとえば『方法とは何か』という問いがあります。つまりすべての『方法』に当てはまる『共通の原理』とは何か。そういうふうに考える学問をやっていまして、その『原理』を、学問的につくって持っていたんですよ」
「はー……」
「『方法』というのは、必ず『ある特定の状況』で使われますよね。『ある特定の状況』のもとで『ある目的を達成する手段』のことを『方法』と呼びますが、これって定義上『例外』がないんです。要するに、考えればいいポイントは2つしかない。それは『状況』と『目的』です。いまはどういう状況で、何を目的にしているのか。今回の場合、目的は『被災者支援』ですけれども、この2つを見定めることで、『方法』の有効性が決まってくるんです」
「つまり『方法ありき』ではない、と」
「そうそう、そうなんですよ。『方法』は、柔軟に形を変えていいんです。初めて行った被災地が南三陸町だったんですが、そのときは、こんな大きなプロジェクトをやろうなんて、まったく思っていませんでした。とにかく、やれることをやんなきゃと思って、バンを荷物でいっぱいにして行ったんです。被災地は何百kmにも及んでいるわけだから、普通に考えたら、物が足りているなんてことはありえない。絶対、人が行ってないところがあるはずだ、と」(161~162ページ)
クルマに支援物資を満載にして出かけて行っても、物資はあっという間に底を突いてしまいます。被災地の被害はあまりに甚大で、個人の力では支援に限界がありました。どうにかして、全国の力を結集する方法が必要でした。
仙台市の実家のコタツにパソコンを置いた西條氏は、夜を徹して南三陸町の惨状をツイッターで発信し続け、ある程度まとまった段階で自分のブログに「絶望と希望のあいだ――南三陸町のレポート」と題して掲載しました。すると、突如、1時間に1000人単位でフォロワーが増えていったのです。18万人以上(当時)のフォロワーがいる津田大介氏が西條氏のツイートを読み、拡散してくれたことが引き金になったようです。
その直後には「ふんばろう南三陸町」のウェブサイトを立ち上げ、新たな支援システムの準備が整いました。
前述したように、構造構成主義の「方法の原理」によれば、方法の有効性は「状況」と「目的」に応じて決まります。停電でパソコンは使用できなくても、宅配便が届き、携帯電話もつながるという被災地の「状況」を把握したうえで、ホームページとツイッターという使えるツールを組み合わせ、被災者支援という「目的」を達成するための新たな仕組みを考案したのです。
――ホームページに、聞き取ってきた必要な物資とその数を掲載し、それをツイッターにリンクして拡散し、全国の人から物資を直送してもらい、送ったという報告だけは受けるようにして、必要な個数が送られたら、その物資に線を引いて消していくのだ――。
そうすれば必要以上に届くこともない。また、仕分ける必要もなければ、大きな避難所や倉庫で物資が滞ることもない。必要としている人に必要な物資を必要な分量、直接送ることが可能になる。ツイッターの文面に直接必要なものを書いて拡散する人がいたが、その方法では無限に広がり、物資が充足しても延々と届き続けてしまう。(62ページ)
そして、驚くべきことに、それから24時間以内に、そこに掲載した物資はすべて送られていたのです。かくして「ふんばろう南三陸町」から始まったプロジェクトは、東北全体に拡張して「ふんばろう東北支援プロジェクト」になり、さらに東日本全域に拡大して「ふんばろう東日本支援プロジェクト」が誕生しました。ツイッター上で立ち上がったプロジェクトは拠点もないまま、こうしてわずか数日のうちに瞬く間に広まっていったのです。
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」は、「物資支援プロジェクト」から始まりました。物資を必要としている避難所や個人避難宅に、行政を介さずに全国から直送できる仕組みをつくることで、必要な物資を必要なときに必要な分だけ送り届けることを可能にしたのです。さらに、物資支援以外にも「学習支援プロジェクト」「重機免許取得プロジェクト」「ガイガーカウンタープロジェクト」「就労支援プロジェクト」といった50以上のプロジェクトを生み出しながら、2012年1月時点で約3000ヵ所以上の避難所、仮設住宅、個人避難宅を対象として3万5000回以上、15万5000品目に及ぶ物資支援を成立させました。
加えて、アマゾンの「ほしい物リスト」の仕組みを導入することで、2万4000個以上の物資支援も実現しました。「ほしい物リスト」は、ほしい物を一覧にして保存することができる機能です。このリストを作成すると、自分のほしい商品を他の人に簡単に知らせることもできます。そして、その商品を他の人が購入することで登録者にプレゼントしてもらえるというシステムです。通常は家族や友人へのお祝いなどに使われるシステムですが、これを被災地支援に応用したのです。
そして、「ふんばろう」が総力戦で臨んだ「冬物家電プロジェクト」では、行政や日本赤十字社の支援を受けられない自宅避難宅を中心として、1万3000世帯以上に冬物家電を届けることができたのである。これによって「家電プロジェクト」として総計2万5000世帯以上への家電支援を行うことができた。
2011年4月に、たった2人で立ち上げたプロジェクトが、8ヵ月後、国や日本赤十字社もできない支援を成し遂げたのだ。(200ページ)