では、見やすい表を作るには
どうしたらいいのか?

 こんな場面を考えてみてください。部下が作ったエクセルの表を読み解くのに苦労した上司が、部下のA さんとBさんに、「もっと見やすい表を作れ!」と指示しました。Aさんは、「よし、見やすいように色分けしよう」と、色をふんだんに使った表にしました。Bさんのほうは、「色を使わず、シンプルな表がいいだろう」と罫線だけの表にしました。

 そしてお互いに相手の表を見て、Aさんは「なんだ、この地味な表は」と思い、Bさんは「こんな派手な表、目がチカチカする」と思う。結果として、上司の指示はまったく実現されません。こういうことは、エクセルの作業をめぐってよく見かけます。

 一口に「見やすい」とっても、人によって捉え方が違います。ある人には「見やすい」ものが、別の人には「見づらい」こともままあります。 独りよがりの「見やすい」を防ぐために投資銀行が行っているのは、正しいフォーマットのルールを決めることです。フォーマットにおける「個性」は認めません。
 投資銀行では、プレゼンテーションのスライドにもエクセルの表にも詳細なフォーマットのルールがあり、全社員がそれを守ることを求められます。

 その厳しさは徹底していて、入社2年目くらいまでは、作成した資料を上司に見せても、フォーマットが一発でOKになることはまずありません。3年目でようやくフォーマットが一人前。4年目になると、1年目、2年目の社員を鍛える側になります。
 それぐらい時間をかけてフォーマットを叩き込みます。投資銀行は、「正しいフォーマットを徹底することは、計算ミスを減らし、分析内容の理解度を上げ、顧客に信頼されるための基本」という意識を強く持っているのです。

 拙著『外資系投資銀行のエクセル仕事術』では、そのフォーマットのルールについて非常に細かいところまで解説しています。ぜひみなさんも、チームでフォーマットのルール化を意識して頂ければ幸いです。

 最後に、これは余談ですが、投資銀行でいかにフォーマットが徹底されているかを物語る例を、1つ紹介します。ずいぶん昔になりますが、モルガン・スタンレーの投資銀行部の忘年会でクイズ大会を開催しました。面白いのは、そのクイズ大会のお題が、なんと会場のスクリーンに映されたパワーポイントの「フォーマットの間違い」を当てることだったのです。

 当時、社会人になりたてだった私は、みんなが盛り上がるのを見て、「みんな、何してんだ!?」と思いましたが、いまになって考えると、これはなかなかすごい話です。
 社員全員が「フォーマットには正解がある」ことを理解しているからこそ、クイズが成り立つわけです。しかも、その間違い探しを余興にして楽しめるほど、正しいフォーマットへの意識が社内で共有されている。そういうところに、投資銀行のフォーマットへのこだわりを感じますね。