写真 加藤昌人 |
「洛中洛外図」で知られる、屋根や壁を取り払って、建物内部をたなびく雲霞の上から鳥瞰した構図は、「吹き抜け屋台」と呼ばれる。こうした大和絵の伝統的な手法を用いながら、緻密なデッサン力をカンバス上に油彩で見せる。
そこに描かれているのは、たとえば現代の高層建築、中世の日本家屋、江戸の町並み――。過去と現在が渾然一体となって、かつ寸分の破綻もない統一感をもって共存している不思議な空間である。江戸の町人と現代のサラリーマンが共に遊山を楽しみ、鎧武者はオートバイのような車輪を持つメカニカルなウマにまたがる。画面の細部にまで張り巡らされた巧妙な仕掛けは、シニカルな文明批評のようでもあり、過去から現在までの人びとの営為を温かいユーモアでくるんでいるようでもある。見る人の視点によっていろいろな解釈を加えうる、山口ワールド。仕上がる前にすでに買い手が決まっているほどの人気ぶりだ。
世に溢れる現代アートは、観る者に思考を強制したり、プラカードのようにメッセージを主張したり、あるいはサブカルチャーの延長であったり、わかりにくさこそが独創性であるといわんばかりだ。だが、「とっつきやすくて、離れがたい絵を描きたい」と力みも屈託もない。ひたすら絵がうまくなりたいと、チラシ広告の裏をクロッキー帳代わりにしていた、「お絵描き少年」の心を、今も失っていないからだろう。
(ジャーナリスト 田原 寛)
山口 晃(Akira Yamaguchi)●1969年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程修了。1997年グループ展「こたつ派」で、一躍注目を集める。2001年岡本太郎記念現代芸術大賞優秀賞。活躍の場は、CDジャケットや雑誌の表紙など、さまざまなジャンルに及ぶ。2007年練馬区立美術館にて個展開催。