「直観」や「主義主張」を排除する
そうは言っても、この本はよくあるハウツー本じゃない。だいいちぼくたちは人さまにノウハウを伝授するような柄じゃない。ぼくたちのアドバイスに従うと、面倒をまぬがれるどころか、かえって巻き込まれることもある。
ぼくたちの考えは、いわゆる経済学的アプローチにヒントを得ている。といってもバリバリの経済をとりあげるわけじゃない――全然ない。
経済学的アプローチっていうのは、もっと幅広くシンプルな考え方だ。直感や主義主張は脇にどけて、データをもとに世の中のしくみを理解し、どんなインセンティブがうまく行くのか行かないのか、また(食料やら交通手段やらの)具体的な資源や、(教育やら愛情やらの)観念的な資源がどう配分されるのか、資源が手に入りにくい原因にはどんなものがあるかを明らかにしようとする方法をいう。
こういう考え方は魔法でも何でもない。わかりきったことをひっくり返して、ものごとの本質を見抜こうとするだけだ。そこで残念な知らせがひとつ。この本にマジシャンのネタバレみたいなものを期待している人は、がっかりするだろう。でもいい知らせもある。フリークみたいな考え方をするのはとても簡単だから、誰にでもできる。それなのに、実践する人が少ないのはとても不思議だ。
どうしてだろう?
1つには、政治的、思想的、その他のバイアスのせいで、偏った先入観をもってしまいがちだから。どんなに聡明な人でも、新しい情報を積極的にとり入れてたしかな現実感覚を磨くより、自分がもともともっている考えを裏づけるような情報ばかり探そうとする、という研究成果が続々と発表されている。
2つめの理由として、みんなと同じことをするのはラクだから。
どんなに重要な問題についても、友人や家族や同僚の意見に合わせるだけの人が多い。これはわからなくもない。家族や友人の意見に合わせるほうが、自分と同じ意見の新しい家族や友人を探すより簡単なんだから。でもいつもみんなと同じでいると、つい現状に満足して、新しい考えをとり入れようともせず、考えることまで人任せにしてしまう。
フリークみたいな考え方ができない理由はもうひとつある。たいていの人が忙しさにかまけて、ゼロベースで考え直したり、ものごとをじっくり考えることすらしなくなっているのだ。あなたが最後に考えごとに没頭して1時間を過ごしたのはいつだろう? かなり前のことじゃないだろうか。
超高速時代だからしょうがないって? そんなことはないはずだ。
稀代の劇作家でロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の創設者でもあるジョージ・バーナード・ショーは、この思考不足の問題にずっと昔に気づいていた。「1年に2、3回以上ものを考える人はほとんどいない」と彼は指摘している。「私は週に1度か2度考えることで、世界的な名声を築いた」
ぼくたち二人も、何とか週に1、2度は考えるようにしている(ショーほど気の利いたことは考えられないけれど)。あなたにもぜひ勧めたい。
(※この原稿は書籍『0ベース思考』の第1章から一部を抜粋して掲載しています)