水永 私も同じです。グループワークの宿題には本当に苦労させられました。それから、フィールドスタディという卒業論文に該当するものがありましたが、それもグループでやるんですよ。

河合 グループでの作業は、ある意味では能率が悪いことでもありますよね。頭の固い人を説得しなければならないこともあります。逆に、グループワークを乗り越えたからこそ、ヨーロッパでも、どこの国の人とでも仕事をする自信がついたとも言えます。もちろん、個人的な相性の良し悪しはありますが。ハーバード大学では、勉強も試験もグループでやることはなかったので、本当によい勉強になったと思います。

水永 ペーパーを書くだけなら1人ですからね。日本と違って、彼らは本当に諦めないですからね。4人いて自分の意見だけが違っていても絶対引かないですから。日本であれば、3対1になると「あ、これはまずいな」と引きますよね。やっつけても、やっつけても、彼らは譲らない。

 河合さんが『自分の小さな「鳥カゴ」から飛び立ちなさい』にも書かれたように、あの粘りは、多様性を最初から認めている文化だからこそだと思います。信じていれば、根拠があると思えば主張し続ける。それを説得することは相当に難しいですね。

河合 水永さんは、MBAや留学を勧めますか?

水永 はい、勧めます。とくに学生であれば、チャンスがある、機会があるなら絶対に行けと言っています。

河合 勉強は日本でもできるけど、それ以外のことが学べます。自分の本のなかでも、ある偶然から始まった留学から、まったく違った人生を歩んだストーリーを書きましたが、「ヨーロッパ各国で仕事をする」「世界中に友人がいる」など、子どもの頃自分が想像もしていなかった可能性が留学によって手に入れられたことは素晴らしいと思います。苦労した甲斐がありました。

水永 知識はどのような方法でも学べるでしょう。それ以上に、誰かを説得する、違う意見を聞く、それからリスニングスキルも大きいと思います。聞くことの中に、積極的リスニングってありますよね。相手の意見を引き出して、質問しながらリスニングすることで、議論のポイントを探す姿勢です。コンサルタントはよくやりますが、学生の段階でそれを学ぶ価値はあると思います。

河合 私もその意味では、海外のMBAを勧めたいと思います。

水永 日本の大学でも、大学院でも、そういう積極的な議論は少ないですよね。多数派のほうに流れていくだけになります。

河合 そうですよね。反対する人はいませんね。

水永 それでは標準的な結論しか出てきません。アメリカでは、グループ内でも議論が盛り上がりますが、さらにグループが複数あるとしたら、各グループからとても多様性のある結論やプレゼンテーションが出てきますよね。だからこそ、おもしろい。そのおもしろさは行かないとわからないと思います。

バカバカしいことでも
とにかく聞いてみる

河合 MBAに入学して、最初はどうでしたか?勉強以外の苦労はありますか?

水永 苦労の連続ですね。まず、言葉の面が非常に大変でしたし。

河合 授業では最初から発言されていましたか?

水永 がんばらないと点数をもらえないんですよ。机に名札を立てて、「当ててください!」と(笑)。

河合 私もまったく同じでした。

水永 残念ながら、授業の内容が深くなればなるほど、わからなくなることが増えていきます。それに気づいてからは、授業の冒頭で手を挙げるという小技を使っていました(笑)。

河合 私もまさにそれをやっていました。先生も、「かわいそうだな」と思ってなのか、私を指してくれるんですよ。

水永 そう、英語が苦手な人は最初のほうに当てておこうと。ケースの場合、準備していれば最初は発言できますが、白熱してくると行ったり来たりを始めますからね。

河合 そうそう。発言しようと考えていたことが前の人にいわれてしまうとかよくありました。

水永 「このケースのバックグラウンドは?」と質問されたら、「はい!はい!はい」って(笑)。そういえば、そもそも、日本では発言する習慣がありませんよね。手を挙げないですから。

河合 そうですね。私が見学させていただいた授業でも、手を挙げないから水永さんが学生さんを指してらっしゃいましたね。

水永 そうですね、最初に指さないと手を挙げない。でも、だんだんペースに乗ってきて、話せるとわかると、どんどん「はい、はい」となります。それからは、「どう思う、誰か?」と全体に投げかけます。

河合 私の講義にいらしていたいだときは、質問が出ていましたよね。

水永 英語だったことがあるかもしれませんね。あの授業には外国人も多かったですね。

河合 留学生がいます。留学生はたくさん発言しますよ。

水永 しますよね。こちからか止めないといけないぐらい(笑)。やっぱり日本人のほうがどうしてもシャイなのかな。以前、一橋大学でも同じように英語で講義を行いました。ポーター賞の関係で、講義をさせてもらったのですが、8割方が外国人で、日本人のほうが少数派なんですよ。

河合 それはすごいですね。それは国内でも外国留学のような経験ができるのですね。

水永 そういう環境だと、こっちから何も言わないでも勝手に手が挙がりますね。「今、聞いてないんだけど」と思ってしまうくらいです(笑)。

河合 「もう一度」「そこわかりません」と。

水永 そうです。

河合 ハーバード大学に入学したとき、私も驚きました。こんなバカバカしい質問をして、先生に失礼じゃないのかなと思うような質問もありましたから。「聞いていませんでした」と平気で言いますからね。

水永 日本人からするとうるさいなと思うこともありますね。ありますけど、それでもトータルで見ると、やっぱりおもしろいですね。

河合 先生に積極的に質問することによって覚える、考える、そういう機会になると思います。授業で質問することについて学生は遠慮することはないと思います。すべてわかり易く説明してない場合もありますし、こちらも説明不足に気がつくこともあります。新しい見方もわかります。教師から学生への一方的なコミュニケーションではいけませんね。

次回更新は5月15日(金)を予定。