「ネットカフェ難民」の
ホームレス化をいかに未然に防ぐか

 城山三郎の小説「素直な戦士たち」(1978年刊行)には、英才教育に疲れた少年が「浮浪者になりたい」と渇望するシーンがある。しかし実際にホームレス状態にある人々が、「望んでそうなった」とは限らない、不幸・不運が重なった結果、ホームレス状態に陥り、脱出できなくなっていることも多い。その不幸・不運の一つ一つは特殊なものではなく、本人の特別な問題や怠惰によって引き起こされるものでもない。「高校や大学の中退を余儀なくされた」「『就活』に成功しなかった」「不況によって失職した」「本人が事故に遭った」「家族が病気になった」「親の介護が必要になった」など、誰にでも起こりうることばかりだ。

「最初は、ホームレス状態からの『出口』を広げることに注力していましたが、最近はホームレス状態の『入口』を狭くすることにも力を入れています。まずは、相談に来ていただくための窓口を広げています」(川口さん)

 現在の見た目が「ホームレスに見えない」ということは、生活状況の安定や安全を全く意味しない。ネットカフェから毎日、スーツ・ネクタイで通勤する非正規労働者も珍しくなくなっている。現在、ネットカフェにはシャワールームが備えられている上、物販コーナーではカップラーメン・スナック・飲み物とともにワイシャツ・ネクタイが販売されていることが多い。

2014年12月、「ホームドア」が大手ネットカフェチェーンのパソコンの起動画面に設置したバナー。現在までの約5ヶ月間で、既に50名の相談につながっている

「だから私たちは、ネットカフェで広告を始めました。とにかく『ネットカフェ難民』状態の方々に、困窮状態から抜け出す手段があることを知っていただく機会を作ろうと」(川口さん)

 ホームドアは企業から無償でバナー広告枠の協賛を受け、2014年12月、大手ネットカフェチェーンが利用者向けに備え付けているパソコンの起動画面に、誰にも頼ることができない人々に向けたバナーを設置した。さらに実験的に、そのネットカフェチェーンの店舗の一つでは、トイレと受付にもポスターを掲示してもらったそうだ。効果は?

「あったと思います。ポスターやWebページを見て、ホームドアに来てくれた人が、50人ほどいました。皆さん、今はネットカフェで生活することがギリギリという状態で、『路上の寸前』という感じでした。中には、結核に罹患していた人もいました。今は、インターネット大手2社さんの協力で、無償広告もさせていただいて、さらに相談件数が増えています」(川口さん)

 冒頭で紹介したとおり、ホームドアは現在も、ホームレスを対象とした夜回り・食料提供などの支援活動を続けている。事務所のある大阪市北区だけでも、150人ほどのホームレスがいるという。その人々を対象に、多様な直接支援や「生活保護の申請のお手伝いができます」「お仕事があります」というチラシの配布などの活動を行いつつ、さらに対象を広げている。

「『ネットカフェ難民は限りなく路上に近い』といっても、路上とネットカフェは、やはり決定的に違います。路上での生活を続けると、心身ともに尋常ではない負荷がかかります。ホームレス状態の方の約6割が精神疾患を抱えているというデータもあります。『だから、ネットカフェ状態から』と思ったんです。相談件数が増えましたので、生活相談専任のスタッフもいる体制にしました」(川口さん)

「ホームレス」問題は、貧困問題の最も深刻な姿といえよう。ホームレス状態の人々、ホームレス状態に陥りそうな人々が直面している問題を解決することは、現在のところは「自分はホームレス状態とも生活保護とも無縁」と考えている人々を生きやすくすることにつながるだろう。

 次回も引き続き、ホームレス問題から生活保護・生活困窮者支援を考えていきたい。