≪マルクス前掲書からの引用≫

 「プロレタリア階級は、その政治的支配を利用して、ブルジョア階級から次第にすべての資本を奪い、すべての生産用具を国家の手に、すなわち支配階級として組織されたプロレタリア階級の手に集中し、そして生産諸力の量をできるだけ急速に増大させるであろう。(略)この方策は、もちろん、それぞれ国が異なるにしたがって異なるであろう。とはいえ、もっとも進歩した国々にとっては、次の方策はかなり一般的に摘用されうるであろう。

(1)土地所有(私有)を収奪し、地代を国家支出に振り向ける
(2)強度の累進税
(3)相続税の廃止
(4)すべての亡命者および反逆者の財産の没収
(5)国家資本および排他的独占をもつ国立銀行によって、信用(マネー、金融システム)を国家の手に集中する
(6)すべての運輸機関を国家の手に集中する(鉄道の国有化)
(7)国有市場、生産用具の増加、共同計画による土地の耕地化と改良
(8)すべての人々に対する平等な労働強制、産業軍の編成、特に農業のために(農業の生産性向上=生産力を上げること)
(9)農業と工業の経営を結合し、都市と農村との対立を次第に除くことを目指す
(10)すべての児童の公共的無償教育、今日の形態における児童の工場労働の撤廃。教育と物質的生産との結合、等々、等々」

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 このマルクスの10の方策(処方箋)のいくつかはその後、資本主義国でも採用されているんだ。

 たとえば(2)累進税はほとんどの国で採用され、21世紀のピケティは資産税を強化すべし、と言っている。(5)銀行の国有化は金融危機になると日本、米国、ヨーロッパで採用された。(9)農業と工業の統合なんか、安倍政権の農協改革に近いかもしれません。(10)子どもの教育や保護も資本主義国で採用された。つまり、資本主義救済策とも読めるでしょう。20世紀後半には、資本主義諸国が大半のマルクス政策を取り入れているんだよね。

 マルクスはプロレタリア独裁政府による市場への介入政策を書いているわけです。民主主義国家でも法案が議会を通れば政府の大規模な介入はできるわけだからね。

 じゃあマルクスは正しかったのか、というとそうではない。やはり共産党独裁政権による支配体制は、結局うまくいかなかった。J・S・ミルが言うように、個人の自由と主権を認めない体制は続かない、ということでしょう。最近では、大学でもマルクス経済学の理論についてほとんど教えていないので、次回はそのポイントだけ説明していきます。