30分も経たないうちに、いくつかの工程で不良品がラインから取り除かれ、ライン脇のパレットに積み上げられていった。

 健太と麻理はすかさず問題工程に駆け寄り、パレットに積み上げられた半完成品を確認した。多くの部品で、組立部分の溶接が不十分であったり、結合部が破損している状況が見受けられた。

 健太は、隣でこの様子を見ている山田に質問してみた。

「これは、どういうことなんでしょう」

「形の合わない部品を無理やり押し込んでいるようだね。サイズや形状がうまく合っていないと、このように溶接部がずれたり、部品自体が破損したりしてしまう。その他に、作業員の技術不足が原因と思われるものも見受けられるけど、今見ている限りでは、社外から調達している部品の品質に明らかに問題がある」

 健太は初めて生産ラインを見たとき、〈やけに多くの部品がライン脇に積み上げられているな〉と感じたが、そういう理由だったのかと合点がいった。そして山田に質問を続けた。

「社外から調達した部品は、受け取り後にチェックしないのですか」

「明らかに破損している部品は、使わないようにライン脇のパレットに置くことにしている。ただ、微妙なサイズ感の違いなどは注意して見ないとわからないから、そのまま組立作業に使用してしまうのだろう」

「なるほど。サプライヤー(部品・資材の供給業者)からの品質が安定していない上に、作業員もどの部品を取り除くかを厳しく精査していないんですね」

〈日本でのサプライヤーとの関係では起こりようもない問題だが、中国では品質の良い部品を調達することから始めないといけないんだ。これが瀬戸顧問の言っていた本質的な問題なのか?

 健太と麻理は、次に出荷前検査の工程に行ってみた。こちらでは、ライン脇に積み上げられている不良品がいつもより幾分少なめだ。ここに来る手前でずいぶん不良品は除かれているはずだが、最終検査の基準を厳しめにしたので、結果として思ったほど不良品数が減っていなかったのだ。

「ここまでやれば、顧客から返品される不良品は減少するはずね」

「そうだね。でもこれでは、社外に出ていく不良品が社内に滞留するだけだから、根本的な解決にはならない」

「確かにそうね。ライン作業員の間で、生産品質を向上させるという意識づけをもっと高めないといけないわ」

「それだけでは不十分だ。サプライヤーに対しても、納入する部品の品質向上を徹底してもらう必要がある」

「具体的にはどうするの?」

「まずは、モデルラインで納入部品の問題を早急に特定しよう。その上で、サプライヤーに返品する部品のどこがいけなかったのかを先方に明確に伝え、その品質基準に耐えられる部品だけを出荷してもらうようにする。そこまでするからには、サプライヤーと良好な関係を保つ必要がある。まずは現状どのような交渉をサプライヤーとしているかを、調達担当のウェイさんに確認してみるよ。麻理さんは、ライン作業員の意識づけを高める方法について、チョウさんと話してもらえるかな」

「わかったわ」

 2人はすぐに行動に移した。