健太は、生産品質の向上にサプライヤーにも参加してもらう必要性をスティーブに説明すると、スティーブは自分も同行すると言って、2人で調達責任者のウェイとミーティングをすることにした。
「ウェイさん、モデルラインで確認されたのですが、納入されている部品の中で、チューブとそれを本体に取りつけるプレートの品質に問題があるようなんです」
健太は不良部品のデータを見せながら、ウェイの協力を取りつけようとしたが、彼の反応はネガティブだった。
「そんな厳しいことを言ったら、誰も部品を納入してくれなくなるじゃないか」
「しかし、このまま続けていても、お互いに利益が削られていくだけです」
「ある程度の不良率を見込んでプライシングしているから、何も問題はないはずだ」
〈そもそも品質に対する考え方が日本とは異なるんだ。常に改善努力を続ける小城山本社と違って、そこそこの品質で良いと現状に満足しているこの会社は、経営陣の意識改革が相当必要だぞ〉
2人の会話を見かねて、スティーブが割って入った。
「ウェイさん、あなたのサプライヤーとの長年の良好な関係が、これまでの小城山上海の成長に寄与してくれたことは、大変感謝しています。その関係を今一度積極的に活用して、我々とサプライヤーの双方がさらに発展できるように手を貸してくれませんか」
ウェイもスティーブから頼まれるとノーとは言えず、少し前向きになった。
「仕方ないな……。それで、何をどうすればいいんだね」と2人に向き合った。
「チューブを納品しているサプライヤー2社と、プレートを納品しているサプライヤー2社をここに招いて、具体的な品質基準を明確に伝えて、その品質にコミットしてくれるようにアレンジしてほしいのです。ぜひ、モデルラインも見て頂き、我々の本気度を理解してもらいたい」
「私もミーティングに同席して、全社挙げての取り組みだとお願いしますよ」とスティーブも加勢してくれた。
ウェイは渋々ながら、2週間以内にサプライヤーを招いて議論することを約束してくれた。
その頃麻理は、副工場長のチョウ、開発担当の山田と3人で、ライン作業員の品質向上の意識づけについて話し合っていた。
「チョウさん、生産ラインの皆さんに、不良品を後工程に流さないように徹底するには、どうすればいいでしょうか」
麻理の問いかけに、チョウが答えた。
「今日のモデルラインを見ていても、形が合わない部品を無理やり組み立てて、結果として溶接がうまくできていなかったり、本体に亀裂が入ったりしていた。調達部品の品質の見極めを行うことと、各自が担当工程の作業をより丁寧に行うこと、の2点を徹底させないとね」
それを聞いて、山田が一つ提案した。
「『3分間チェック』をやってみませんか。私が小城山製作所に入社して最初に配属された工場でやっていたことですが、今回は効果がありそうです」